「高井伸夫のリーダーの条件」<『月刊公論』財界通信社>~4「私心がないことの重要性~身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

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2015年8月10日(月)7:57 中目黒公園にて百合を撮影
花言葉:「純潔、威厳」

 


9月6日(日)の朝、門前に出ると秋の虫が鳴いていました。
私は虫に詳しくないため、はっきりとは分かりませんでしたが、
鈴虫のようでした。
虫の鳴き声で秋の訪れを感じた清々しい朝でした。 

 

 

7月24日(金)から、2011年5月~2012年4月にかけて、計12回、『月刊公論』(財界通信社)にて私が連載いたしました「高井伸夫のリーダーの条件」を転載しています。 

私の半世紀にわたる経営側の人事・労務問題の専門弁護士としての経験もふまえ、リーダーのあり方について述べた連載です。 

これからは、自分一人の信念で周囲をひっぱっていくというリーダーの時代ではありません。優れたリーダーには必ず、”股肱(ここう)の臣、頼れる参謀”が付いているものです。もはや”孤高の人”では、リーダーにはなり得ないのです。 

ブログ読者の皆さまに、現代におけるリーダーシップ論を考えていただく一助となれば幸いです。

 

「私心がないことの重要性」
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
(『月刊公論』2011年8月号より転載) 

 

いま日本は、掛け値なしに危機的状況にあります。放射線被害による身体の安全の危機、電力供給の不確実さがもたらす生産活動の危機、被災地における人心の危機、そして、政治家のリーダーシップの危機―。大震災のためにこれらの危機がもたらされたというよりも、あるいは、大震災が起きたことで、これまで見えにくかった日本の危機があぶり出されたと表現したほうが正しいのかもしれません。こうした状況であるからこそ、経営トップをはじめとする組織のリーダーは、我欲を離れ、進むべき方向を見定めなければならないのです。私は、特に若い世代に対して、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」というリーダーの覚悟を説きたいと思います。

 

「リーダーは、関連企業が被災し、資材が入らない窮地を、いかにリーダーシップを発揮し、乗り切るか。」

トップ営業という言葉がありますが、資材関係が窮地に陥った場合には、トップがこの困難に対峙して「トップ仕入れ」に奔走しなければなりません。トップは単に指図をするだけでなく、トップ自身が相手方の企業に出向いて、今までの不義理をわびて資材の提供を懇願するのです。

その際には、自社が早急に資材を仕入れる必要性に迫られている大義名分を明確にして、説得に当たらなければなりません。そして、相手方から何らかの前向きの言葉を引き出し、あるいは約束してもらえたならば、それを面談後に速やかに書面あるいはメールで再確認すべきでしょう。「詞は飛び、書は残る」という法諺があるように、口頭の約束を現実化するためには、書面化することが必要なのです。

しかし、「被災した」「部品が入らなくなった」という状況があるからといって、経営トップ、幹部、資材購入の責任者などが、日頃は関係のうすい取引先に突然お願いに行ったとしても、ほとんど効果はないでしょう。危機のときこそ、結局は、日頃からの人間関係、コミュニケーションがものをいいます。平常時には傲慢でふんぞり返っているくせに、苦境に陥ったからといって、手のひらを返したように土下座するなど笑止千万のこととして、嘲笑を受けるだけです。あたりまえのことですが、経営トップも幹部も、取引先とは、損得勘定だけにとらわれず、日頃の人間関係や対応を大切にしなければならないということです。

なお、経営者は、資材を国内で調達するだけでは会社がまわらなくなる危険が大きくなっていることを覚るべきでしょう。なぜなら、国内市場がますます冷え込み、倒産が相次いでくるからです。今回の震災のことに限らず、中長期的な課題として、資材は、国内だけでなく海外からも輸入するという観点から取り組まなければなりません。

 

「社員の不安をいかに鎮めるか」

ある有名ファーストフード企業の社長は、この度の大地震が起こった直後、社員を残して、自分だけ本社のある東京から大阪に逃げたと言われています。彼は、まさに自らの身の安全の確保だけに走った人物として、業界のなかでも評判になったという話を仄聞しました。この人物は、「メールがあれば大丈夫だ」と弁解したとも聞きますが、とんでもない話です。トップは、いかなるときであっても現場に姿を見せることが重要であって、ましてや組織が危険にさらされているときには、なおさらのことです。危機に遭遇してトップがうろたえ、オロオロして自らの職場を放棄して逃亡するなど、もってのほかです。リーダーたるものは、危機にあっても、決してそのような醜態をさらしてはならないのです。

東北地方の被災者の状況を伝える報道を見ているとわかりますが、町長・市長ら各地方自治体のトップは、自らも被災者であることを乗り越え、住民ら避難民とともに行動しかつ現場の指揮をとっています。この姿は大変立派で、胸打たれるものです。前述の社長のように、危険が生じたときに、部下のことを考えず、自分だけが遠方に逃げてしまう者にはリーダーとしての資格はないことは言うまでもありません。

天皇皇后両陛下が大地震でも皇居にとどまられ、東京の中心部分から一切動かれることなく、被災者に対して精一杯のことをされたことが、日本国の立派なリーダーの姿としてわれわれ日本人の心の支えになったことを、私はここで敢えて申し添えたいと思います。

両陛下にわれわれが感動するのはなぜでしょうか。それは、おふたりに私利私欲がまったくないからです。

このことは、組織論にもそのままあてはまるでしょう。組織が危機的状況であればあるほど、リーダーは何事にも私利私欲を離れて取り組まなければ、説得力がありません。

部下はバカではありませんから、リーダーの邪心をすぐに見抜き、本心を察知します。同じ行為をしても、私利私欲があるかないかは、まわりの者にすぐにわかるものです。私利私欲にまみれたリーダーは人望を失い、次のステップでは、この人物をいかにして追放するかということが組織のテーマにされることを、リーダーは自覚しなければなりません。

リーダーは、日頃から、我欲を捨てて、苦しいこと、困難なことに立ち向かっていく姿勢を示さなければまわりの信頼を得られず、大阪に逃げ出してしまった前述の社長のように、物笑いになるのです。

 

「人事に常についてまわる風評が、情実人事。これにどう対処するか。」

トップがなぜ情実人事を行いがちかと言えば、そうすると気がやすまるからです。社長やリーダーは強いストレスを受けて、非常に孤独な仕事で疲れているため、つい情実人事に走ってしまうことがありますが、それは、社長の精神力の弱さのあらわれとも言えます。要するに、自分が苦しいから、一層かわいさ・親しみやすさを求めて、つい情実人事に走ってしまう。そこで、番頭たる者がこれを牽制して社長を支えることが必要になります。リーダーは、いまのような苦しい時代こそ、番頭役からの諫言を謙虚に受け止めなければならないのです。

では、情実にならない人事を行うにはどうすればよいのでしょうか。

まずは、「人をみて法を説け」を実践し、トップの重要な役割のひとつである人物鑑定・人物評価のための能力を磨くことです。「人をみて法を説け」とは、釈尊が相手の能力や性質に応じてわかりやすいように真理を説いたということからきた言葉です。上に立つものは、何より部下の本質を即座に見抜く目を持たなければなりません。相手の言動のなかからその特性を感じ取り、対応しなければならないのです。こうした鍛錬を経て、人を見る目は確かなものになっていきます。

人事が情実に基づいて行われているという風評はとかく発せられがちなものですが、「わが社のトップは人を見る目が優れている」ということを社員に意識させること自体が、情実人事でないことを裏付ける事実となります。そして、人事が情実ではないことを示すためにも、部下をほめるだけではいけません。ほめるだけでは、まさに情実人事に陥っているという風評を招きかねません。部下を適切に叱ることの意義を、トップは意識しなければならないのです。

部下への指導・注意は蔭で行うこともありますが、厳しく対処して、懲戒処分や懲戒解雇にすることも、ときには必要です。「厳しい人事を行う社長」という評判を得るキャラクターでなければならないのです。ニコニコ笑っているだけでトップが務まると思ったらとんでもない話です。厳しさがなければ、情実人事に走る社長と受け取られてしまいます。

レピュテーションリスク(風評被害)という言葉がありますが、これは、風評を立てられる側の責任でもあることを知るべきです。トップが情実人事をしたという風評を立てられるときには、本人の側の責任も決して看過できません。

ところが、世の中は不思議なもので、風評をことさらに流す者がいます。リーダーにとっては、そうした悪意ある者をいかに整理整頓していくか、そして、悪意ある者の発言の効果をいかになくしていくかということも課題となります。それは、本人の絶えざる規律ある態度による以外ありません。つまり、風評を立てる者との関係において、スキがあるところを見せてはならないのです。そして、情報が瞬時に伝わるいまの時代は、誰もが現実にさまざまなレピュテーションリスクを負っていると言っても過言ではないのです。

 

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