2015年5月のアーカイブ

第5回 高井先生言行手控え


 

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2015年5月4日(月)東京都港区芝公園にて
芍薬を撮影(花言葉:「はじらい」)

 

 

 

第2回記事(2015年2月27日付記事)より、平成元年(1989年)、髙井先生の「就職情報誌の現状と今後のあり方」という演題でお話をいただいた折の講演録から、その示唆と洞察に富む提言を紹介しています。

 

■髙井先生との質疑応答

本講演の最後に、髙井先生と参加者との質疑応答が行われました。そのやりとりをご紹介します。

 

 


質問:
「就業規則と広告内容との整合性を検証することが必要である」とのことですが、営業の現実場面では就業規則の提示を嫌がる企業、それも大企業にありがちなのですが、どうしたらいいでしょうか。」

 


先生:
「私の事務所では、多くの企業から就業規則をいただきますが、“社外秘”と印刷されています。中小企業では就業規則と実態の乖離が目立つので提出をいやがることもあります。一方で、公共職業安定所や労働基準監督署は、職権で提出を求めることができます。正確な求人情報を求職者に提供するという目的は官民で共通であるわけですから、就業規則の提出について、求人広告を扱うすべての媒体が共同で労働省(当時)に問題提起を行うことが必要ではないでしょうか。」

 

 

■現場に行くことの重要性


質問:
「求人広告を制作しています。企業の魅力を伝える時に、『過度な誘致』にならないようにするには、どのようにしたらいいでしょうか?」

 

 


先生:
「あなたに本当にその気持ちがあるならば、広告制作担当者は社長室で社長に会わなければいけない。
その会社の職場に行き、その会社の空気を吸う。そこで初めて真摯な企業か、インチキな企業かを体感できます。デスクワークで、現場に行かないと、そこに美化があり、虚飾が入り込みます。魅力を伝えることに偏るとむしろ弊害が目立つことになります。客観的で正確な労働条件を基準にして、その上に如何に、知・情・意というソフトのオブラートをかけるか、そういうことが必要ではないでしょうか。」

 

 

 


質問:
「審査室は、どのように機能すればよろしいでしょうか?」

 


先生:
「どんな産業群でも、売上げを重視しがちです。その中で、どの程度に、どのように、どの時期に、審査室が機能していくのかを経営者とともに熟考し、事前審査の対象や事後審査の対象を明確にしながら進めていくことです。言うは易いが行うは難しです。求人広告というソフトウェアは、極めて優劣の判定が難しい世界です。
例えば、自動車の欠陥というのは極めてわかりやすい話で、動かなくなるという現象でわかります。ところが、求人広告の優劣というのはなかなかわかりにくい世界です。適否が判断し難い場合は、内部的な審査機能を充実させ、自らの良心に従って事業を運営し、誠意と努力、この一点に審査機能を集中させていかなければなりません。」

 

 

■社内制裁制度は創意工夫が必要

 


質問:
「社内制裁制度について詳しく教えて下さい。」

 


先生:
「一般的に営業上、不始末な行為をすると、例えば使い込みなどの場合は、懲戒解雇です。求人広告に関していえば、瑕疵のあるものを瑕疵のないような表示方法で売りつけて、当社の信用を毀損した。会社としては、キズのないものを売ろうと思っていたにもかかわらず、営業担当が、キズがあることに気づくべきであることに気づかないで、売りつけて当社の信用を傷つけた。こういう場合は、始末書つまり譴責です。制裁措置としては、この他に減給や出勤停止、ひどい場合には懲戒解雇になります。また、制裁措置は行為者本人だけではなく、監督責任も問います。行為者本人よりも軽度なものになりますが、管理職としての適格性を問われます。求人広告の営業・製作過程において瑕疵がある場合は、この制裁措置に創意工夫が必要です。求人広告を定期的にモニタリングして、不良な広告や違法な広告を見つけ出したり、苦情受付の広報を積極的に行うことが必要です。問題広告があれば、審査委員会で公平公正に懲罰を判断することが求められます。そして、一番大切なことは、原因を明らかにして対策を講じることです。求人広告の場合は、その殆どが求人者の情報提供がいい加減であったり、労基法の知識が不十分であることが多いと思います。そうなれば、労働条件の情報提供において、間違えやすいところを説明したり、労働関連法をわかりやすく説明するための啓発ツールの開発が必要になってきます。そこには大いに投資をすべきでしょう。皆さんが携わっておられる就職情報誌は社会的に多くの役割を担っていることを忘れてはいけません。」(講演終了)

 

 

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※ 上記は、講演後に当審査室でまとめた「就職情報誌の8つの社会的な機能(1989年)」です。

 

(つづく)

 

 

 

 

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2015年5月3日(日)12:33
東京都千代田区永田町二丁目にてスミダノハナビを撮影
花言葉「辛抱強い愛情」「クールな美しさ」 

 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

 

提言

 



<1> 新経営体制の確立のために

 

  1. 社長はA社の自力再建のために全力投球していること、これに失敗すれば最早A社の自力再建の道は残されていないことを社内の隅々にまで周知せしめること
  2. A社の自力再建にあたる社長としての所信を、定期的に簡潔に、パターンを統一して、わかりやすく全社員に披攊すること
  3. 直ちに全役員に日付を空欄とする辞表の提出を求めること
  4. 社長と共にA社の再建を体を張って実現しようと考え、行動する役員によってのみ非常事態下にある役員会を構成する考えであることを宣言すること
  5. A社より少数精鋭、一騎当千の役員体制を早期に確立すること
  6. 営業用役員は顧問に就任せしめ、その報酬はメリット(成功報酬)システムによること
  7. 組織を全面的に見直し、営業強化に資する体制であるか否かを確認すること、すなわち役員の配置あるいは管理職の配置において適材適所であるか否かを全社的に改めて検証することをも含む
  8. 社長は何事についても責任者を指名し、且つタイムリミットを設定し、これを厳守させること
  9. 会社再建に力を発揮し得ない役員や管理職者には、現在のA社の力においてポストを提供し得ないことを知らしめること
  10. 技術者を適宜営業第一線部門に配置すること
    営業部門、セールスマンに技術教育を実施すること
  11. 全社部門から選出した再建策策定委員会を発足せしめ、2週間以内に昭和●年、●年度の採算分岐点を確定させること
    (それは年間250億円を超えるものと目されるが、A社と比較して、何が故にかかる高額の採算分岐点となるかを分析することをも含む)
  12. 上記委員会において、1月後の役員会に付議できるよう、A社自力再建策を社長に答申させること、就中その中には昭和●年度に採算分岐点に到達さしめる上で、人員合理化が必要であるか否かを必ず答申させること
    (時間厳守)
  13. 全管理職者、あるいは一般社員有志に対してA社再建の私案を書面にて募る旨公示すること
    (社長宛親展とし、時間厳守)
  14. 再建策策定委員会の社長宛答申を役員会にかけ、必要な具体的施策については昭和●年度内に実施に移すこと
    (遅滞は許さぬこと)
  15. 管理職者へ権限を委譲すること
  16. 成り行き任せの経営を打破するために、役員を含め会社の隅々まで厳正なる信賞必罰の態度を以って臨むこと
  17. 社訓・社是を見直したうえ、事業所内各所に掲出し、毎日の朝礼において、役員・管理職者はもとより全社員に唱和させること
    (見直しに当っては、A社再生の祈願を込めて当ること)
  18. 朝礼を毎日励行し、発言者を特定の者に限定せず、主催者が適宜に指名して、全社員が絶えず会社のために何を為すべきかを主体的に考える習慣づけを行うこと
    尚、役員はどこかの朝礼に必ず出席すること
  19. 人事考課結果を賃金に反映させること、すなわち査定制度の導入を早急に検討し実施すること
  20. 社内報を最低毎月1回発行し、経営意思の浸透を図ること
    (必要あれば連日にわたることもいとわぬこと。社員の大半にA社再建にかける会社の真意と思想が誤りなく伝わるようになれば、左程頻繁にわたらずとも自然と用をたすことができるようになってくる。)
  21. 管理職者の意思統一を図り、経営情報を適宜に流すために管理職者対象のニュース媒体を設け、適宜に発行すること
  22. 業務の外注化、他者のもっているノウハウの積極的取り入れを心懸けること

 

 

 


<2> 経営姿勢を正すために

 

  1. 役員は一般社員、管理職者よりも毎日少なくとも30分早く出社すること
  2. 役員の退社は原則として部下が退出した後とすること
    (社員の出退勤、精勤度はこれだけで相当程度改善されよう)
  3. 経営・管理とは看ることにはじまること
    部下の働き、気働きに絶えず気を配り、褒め、叱り、そして叱咤激励することを忘れてはならないこと
  4. 前日遅くまで仕事をしたからといって翌日遅く出勤することは許されないこと
    まして前夜深酒したから……などという遅参はもってのほかであること
  5. 愚痴や批判を社員に語ることはしないこと
    (社員から軽くみられ、軽蔑されるのが落ちである)
  6. 役員は営業日にはゴルフを行わないこと
    (金が惜しいからではなく、時間が勿体ないからであることを明言しておくこと)
  7. 万已むを得ず接待ゴルフをしなければならないときは、月曜日、金曜日、祝祭日の前日と後日を避けたうえ、社長の許可を得たうえで行なうこと
    役員はその報酬の1割を辞退すること
  8. 月間行事予定表を作成し、全社的にこれを知らしめること
  9. 役員は毎日の行動・所在を具体的に予め明らかにし、即時に連絡できるような態勢にすること
  10. 役員は外出した場合には少なくとも2時間おきに会社に電話を入れ、用向きのあるなしを確認すること(糸切れ凧は認めない)
  11. 役員は率先して経費の削減に努めること
    役員専用車を廃止すること
  12. 特段の理由のないグリーン車は利用しないこと
  13. 業者からのリベートの有無につき実態調査をすること
    もし規律違反の事実があれば3年前にさかのぼり即時全額返済させること
    尚、本日以降同様の所為に及んだ者は、背任横領を理由として告訴をする旨を社内に明確に宣言すること
  14. 何事によらず責任者を明確にし、オンタイムで仕事をさせること
  15. 役員はA社が再建会社であることを常に忘れず、社員の行動の範を示さなければならない。行動を正すことが即萎縮管理に陥いることになってはならない。萎縮してしまっては企業の生命源でありバイタリティを喪うことになるので、左様な事態にならぬよう工夫すること

 

 

 


<3> 管理職者の意識改革と能力再開発のために

 

  1. 役員に対する教育を進めた後、管理職者に対する教育を継続的・徹底的に行なうこと
  2. 管理職者に目標管理システムを修得させ、実践させること
  3. 係長あるいは主任に対して実質的権限を一部付与し、責任を自覚せしめること
  4. 各階層別あるいは各部門別の管理職会議を制度的に設営し、効果的に運営するよう取計うこと
  5. 管理職者につき定期異動を励行すること
  6. 管理職者の能力・適格性を年1回必らず全面的に見直すこと
    適格性を欠く管理職者についてはその都度降格すること
  7. 管理職者に責任と能力に相応しい待遇を付与すべく、賃金制度・賃金体系・資格制度につき早急に検討を加えること
  8. 全社共通の認識に立って判断・管理を行う上で、営業現業部門以外の管理職者は、新たに出勤させる土曜日を中心に最低月2回は営業応援を実践し、実体験すること
  9. 会議は営業活動に支障を生じさせぬ時間帯・日時に設営するように心懸けること

 

 

 


<4> 営業の増進及び士気向上のために

 

  1. 営業部門の質的向上を図るのが急務であるので、接遇訓練をはじめとする営業基礎・専門教育を開始し、持続すること
  2. 代理店経由の販売高を策定し、その半期毎1割増を期する施策を具体的に緻密に立案し、直ちに実行に移すこと
  3. 押し込み販売、すなわち架空売り上げを厳禁すること、これを行った責任者については懲罰的人事異動を行うこと
  4. 毎日の売上げが各職場で発表できるようデータ作成をすること
  5. 営業成績向上のために、毎朝一定数の電話を必ずかけさせること、定型的な電話や宿題の電話の外、新規の営業開拓電話を必ず数本含ませるようにすること
  6. 顧客への訪問回数を増加すること、これを組織的にすすめること、行きにくいところへ意識的に訪問すること
  7. 全社員がセールス活動に注目を払うよう、営業応援を計画し実施すること
  8. 全社員にホーレンソーを忘れないよう徹底すること
  9. 不良社員とは上司を疲れさせる社員のことである。裏切る者、背信の者等々の不良社員を牽制することを忘れず、絶えず攻めること
  10. 毎日営業日報を提出させること及びこれの効果的活用を図ること
    (営業日報と日当・交通費の精算が同一の書類様式となっているよう作成することも一案)
  11. 各部門責任者は営業報告書を毎月提出すること
    営業報告書は計画・実績・次の期間の目標・それを達成する具体的手だてを明らかにするものであること
    尚、営業報告書は書式をつくり、簡にして要を得たものとすること
  12. 営業行動基準、標準作業を作成し、合理的、効率的な営業活動の展開を図るようにすること
  13. 各部門別、各支店、各営業所別に5日目毎に営業成績を集計し、それぞれの予算達成度を公表すること
  14. 営業会議を各セクション毎に毎週定期的に開催し、戦略戦術を議し、適宜決定すること
    その決定事項は必ず議事録に留め、次回の会議においてその進捗状況を確認すること
  15. 毎月5日までに作成された月次報告書をもとに、社長が主催して月次業績検討役員会を毎月10日までに開催し、当月及び翌月の取り組みを検討し、重点施策を具体的に決定すること
    責任者への示達と報告を怠らぬこと
  16. 代理店をブロック別に組織化したうえ、貢献度を基準として処遇に差異が生ずるシステムを導入すること
  17. 社内に競争意識を植え付けるべく、営業実績に功顕著の部門、あるいはセールスマンには然るべく(相応の)褒賞を行う制度を設け、実施すること
    但、刺激給政策をとることは不可
  18. 出勤状況良好な者については一定の基準を設けて然るべく(法に抵触しない範囲内で)褒賞する制度を設け、実施すること
  19. 工事は全面的に外注に委託するよう取計うこと
  20. 外注工事単価は小型外注10%カット、大型外注30%カット、平均20%カットの方針で直ちに対処すること
  21. 資材購入単価は10~20%カット、平均15%カットの方針で直ちに対処すること
  22. 全事業所に対して速やかに業務監査を実施すること

 

 

 


<5> 非常事態に即応する労働条件の設定

 

  1. 労働条件の改訂に当っては、それ以外の再建策の改訂如何と併せ検討し進めること
  2. 営業日を増設すること
    全土曜日を営業日とし、とりあえず全役員全管理職者を出勤せしめること
  3. 一般社員については年間所定労働時間を2050時間以上とすること
  4. 残業手当の削減を図るべく労働組合の合意をえた上固定手当制を導入するとともに工事部門の外注化を徹底すること
  5. 再建に支障がある労働協約事項については、組合に積極的に改訂を申し入れ、已むを得ないときは廃棄する手続きをとること
  6. 経営陣の意思力の強靭さ、再建への不退転の覚悟を浸透させる姿勢を示すこと
    すなわち、組合に態度表明するに当っては、真摯に取り組み、最善の案をまとめ、一発回答方式を旨として提示すること
  7. 労組に対する説得活動には役員・管理職者は一枚岩で当ること、ときに社長自らが当たることも必要であること
  8. 争議は好んではならないが、経営の意思を貫徹する上で避けられない争議については断じて惧れないこと

 

 

 


むすび(進んで困難に挑戦すべし)

以上の提言は、A社に企業らしさをとり戻す、すなわち健全な企業に復元させるために最低限必要不可欠であると考える施策を示したものである。
だが、これら施策に入魂させる、すなわち実践は一に懸って新経営陣の精神力・人間力にかかっていると言ってよい。
いずれもA社の現状を考えるとき容易ではないことは充分承知している。
しかし、最早困難であるとか難しいとかいって、A社が直面する問題・課題から逃避をすることは許されないのである。逡巡して困難な命題の解決を1日、1日と先にのばしてみても却って困難を一層深めるばかりであることは否定しようもない事実である。
もとより現状を守ろうとする本能から発する労働組合の抵抗は考えておかねばならない。しかし、それを恐れてはならないのである。労働組合は自らの力で企業再建を果す役割を担うことができない存在である以上、企業はその責任においてこの役を果たさなければならないのである。
企業が健全であることは即社員の幸せに繋がるということを固く確信し、至誠天に通ずの気概をもってことに当たるべきである。
再建を実現した会社は、それぞれに困苦・苦汁を味わって、漸く勝利の果実を手にしたのである。A社もその灯を消してはならない。困難を克服したときの杯を手にすることができたとき、人は峠に立ってものをみる喜びにひたることができる。

以上


追而

尚、毎月1回定例日に本提言に対する経過実効報告が受けられれば、更に現実的な提言をなし得よう。
技術、生産部門ほかに係る提言は、今回は時間的事情もあって割愛した。又の機会に纏めてみる所存ではある。

 

 

第6回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年4月17日(金)東京都千代田区北の丸公園にてノゲシを撮影
花言葉「悠久、追憶の日々」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

(3)営業のパイプを太くすべし

  1. 積年の弊風からA社と顧客との間を繋ぐ営業パイプは細く、且つひびが入り枯れかかっている。これを健全企業並みの太さに回復し、復元させることは容易なことではない。なぜならば、永い間A社は顧客の不信を買い続け、しかも現在市場は低成長時代ということもあって、冷却し、低迷を続けているからである。その上A社は単に既存の営業パイプを太くするだけでは事足りないのである。
    今までに数多くの有望な営業パイプを自らの至らなさから破壊してしまうという愚を犯してきてしまってもいるからである。積極的に新しい営業パイプを獲得し、敷設していかなければならないという課題もある。

  2. それにはどうするか。

    受注した仕事を果すに当って、真心のこもった誠実味のある仕事の積み上げをひたぶりに行なっていくことである。このことをおいてA社を愛するより多くのお得意様の支持を得ることも、またそれらの支持を介して多くの世間の人々との人間信頼関係を打ち立てることも不可能といってよい。A社ファンの増加を仕事を通じて図っていかなければならない。
    A社製品を使用していただくことの感謝の念と半ば同質のものではあるが、代理店・顧客への気遣い、気働きも極めて大切なことの一つである。例えば、A社の主催するあるいは後援する何かの会合が終って散会となったとする。このとき、A社マンは参加者をまず見送ってから帰るべきである。いかに都合があって帰路を急ぐことがあっても、参会者を心から見送ることをせずに、先にそそくさと帰るようであってはならない。万やむをえず先に帰らなければならないときは、その理由を述べ、心から詫びる気持を表わすようにしなければならない。参会者は自分がA社から大事にされたことを知り、心和むのである。些細とも思われるこのような気配り、心遣いが、営業のパイプのヒビを次第に埋め、やがて中に溜った澱を流し、太く、滔々と音立てて流れる営業パイプをつくりあげていくことも忘れてはならない。

 

 

(4)ホーレンソー(報・連・相)を実践すべし

 

  1. (ⅰ)A社の役員、社員の行動のペースは、他者のそれに比べて大変スローモーだという定評がある。企業人としての反応が鈍いということである。

    何事によらず競争に負けない、競争に打ち勝つということは、平衡感覚とともに力動感、推進力、スピード感覚があるということである。A社は力動感(ダイナミックさ)、スピード感が全社的に欠けている。

    これは、直接の担当者がどうのこうのというより、“社風”が自ずと各々の仕事振りに表われている証左とみるべきことなのである。トップや労務担当者が常に気魄ある仕事をしている会社は、商売においてとろい同左をしようにもしようがないのである。

    百年兵を養うは只一戦に賭けるにありとかという軍隊語録があるが、企業においては毎日毎日、一つ一つの仕事が勝負なのである。油断は禁物である。

  2. 再建会社たる今日のA社は、いってみれば断崖絶壁に立たされているのであるから、猶予は最早ない。即時に前進・展開する姿勢がとられなければならない。

    例えば、外部・顧客から電話がかかってきたら即時に応答し、即時に反応しえないような場合でも、遅くとも1時間以内に的確に応答できるように社内の情報管理を練磨しておかなければならない。ところがA社は商売に直接係わる事柄でも、再三催促されなければ仕事をしないという弊風に全社が覆われているといっても過言ではない。

    「仕事に追われるな、仕事を追え」といった姿勢で全社員が毎日の業務に臨むことが必要である。社員一人一人に自分が一体何によって生活の糧を得、職場を得られているかという基本認識をキッチリと教え込んでいないことの結果と知るべきである。

  3. ポパイの超人的な力はホーレン草から、経営の力もホーレンソーからということを忘れてはならない。仕事をなすに当って「報告・連絡・相談」を常に怠るなということである。

    A社はこの点においても甚しく欠ける面がある。

    企業は内外の関係者との意思疎通、理解、納得、信頼を勝ち得てこそ、しかもそれが幅広く濃厚なものになってこそ所期する活動を実現し得るのであるから、この情報管理において根幹をなす報告・連絡・相談を欠き、あるいはその的確、迅速さを欠くということは、取りも直さずA社が感度不良あるいは情緒障害に陥っているとさえいえる。

    打てば響くす早い反応、あるいは適宜なレスポンスがない人間は、いくら人間的によいところがあるとしても商いには適しないといってよい。

    A社のことを気がかりとしている全ての者を苛立たせ、疲れさせ、反撥させ、遂にはA社から離反させることのないよう、報告・連絡・相談を的確に行なうことが必要である。それにはまず役員間、管理職者間の意思疎通を効率よく実現することが肝要である。

  4. A社は関連先に対して今までの無礼、不義理について罪の意識をもち、詫びる心をもって、今日から迅速・的確に報告・連絡・相談を夫々の職場で実践していくことが必要である。

    方針が明確に打ち出され、報告・連絡・相談のルールが確立し、スムーズに情報が流れるようになって、各々の仕事が真に繁忙を極めてくるようになれば、「俺はその話は聞いていない」とか「俺の方に先にその話をもってこないのはケシカラン」などと怒る手合いは自然と力を失い、消え去っていくものである。

 

 

 

(5)感謝の心を忘れないようにすべし

 

  1. A社の役員・管理職者は、今まで楽な商売をしてきただけに感謝の心が足りないとみられている。要するに苦労を重ねて地道に経営を築いてきた経験を社員共通のものとしてきていないからである。利益という物的成果を究極において目指す企業といえども、生身の人間の心を介して発展するのである。このことを看過して、傲慢に振舞うようなことがあってはならない。

    「楽は苦の種、苦は楽の種(水戸光圀)」、この格言程、破綻に瀕した企業の有様の一面を如実に物語るものはない。事実、当事務所がお手伝いをすることになった再建会社の殆んどは、曽って僥倖にも(?)努力せずして楽なあぐら経営ができたところであり、その慢心と油断が昂じて没落の憂き目に合い、土壇場に差しかかって、死ぬ程の苦労と努力のもとで、僥倖にも(!)会社を建て直すというプロセスを経ているのである。禍福は糾える縄の如しとはよく言ったものである。

  2. 企業に限ったことではないが、「ありがとうございます」という感謝の意を折に触れてことばに表わすことが大切である。書状を送るのもその一つであるし、電話においても(当方からかけた場合でも、先方から掛かってきた場合でも)、電話を切る直前に「ありがとうございます」と一こと付け加えることを、全役員、全社員に徹底させることは大切なことであり、又、商売において極めて効果のあるマナーである。

    また、女性社員には、外から電話がかかってきたら最初に接受させることと、社員からの電話であるときは、「お疲れさまです」「頑張って下さい」の一言を加えるよう教えておくべきである。

  3. 再建過程にあるA社は、交際費や接待費を世間並みに切ることはできない。営業上において苦しい立場に陥いることもあろう。しかし、現実は如何ともし難いのである。経費節減の折柄、営業上必要とする接待も十分にできないことは残念なことではあるが、そのことを率直に開陳して諒解を求めれば、相手先も大方は企業に所属する人であるから、殆んどは了解して下さるに違いない。勿論感謝の心を留めておき、A社が黒字になった暁にはいの一番に具体的に感謝の念を形にして表わすべきことを忘れてはならない。

    「喉元過ぎれば熱さ忘れる。」多くの者が陥いる盲点を直截に指摘する諺である。

 

 

 

 

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2015年4月12日(日)16:37 東京都港区南麻布三丁目にてハボタンを撮影
花言葉「利益」 

 

(1)弁護士報酬

このブログの第1回目で述べたように、いまは弁護士人口が増えていることや長引く経済不況により費用を適正な額に抑えようとする企業の動向からして、弁護士はお客様から厳しい目で選別される立場にある。企業の大きな案件では、複数の法律事務所にプレゼンをさせて、どこに依頼するか決めることも珍しくないという。弁護士が、お客様とあらかじめ報酬についての規定を定めないまま受任することは、まずあり得ない。見積書も必須であろう。

ただ、ここで重要なのは、お客様は単に安ければ依頼するのではなく、価格に見合ったより良いリーガルサービスを受けられるかどうかという視点で法律事務所・弁護士を評価しているということである。

弁護士間・法律事務所間の競争が激しくなっている現状では、見積書にしたがってお客様にお支払いいただいていても、クライアントから「コストが高いから弁護士を変更したい」と要望がくることも多いだろう。このようなお客様の要望を受け入れるべきなのだろうか。弁護士といえども価格競争を無視した仕事はできないが、その一方で、自らを卑下するような安売りをする必要はない。自分の能力と仕事の成果に見合う価格を堂々と主張し、交渉すればよいのである。そして交渉の結果、不調となれば弁護士も辞退すべきと観念しなければならない。

顧問契約が解約されるということは、依頼者が弁護士を自由に選べるようになり、弁護士が非正規要員になるということでもある。その結果として報酬が少なくなることは、必然である。

 

(2)資料の取り扱い

また、お客様から契約解除の申し出を受けたとき、弁護士がお客様に証拠などの関連書類を返却しないことがあるが、これは正しいことではない。委任契約終了時には、受任者は受け取ったものを引き渡さなければならない義務がある(民法646条)。また、依頼者から資料の返還を求められているにもかかわらず、弁護士の過誤によりその所在が不明になり、資料の発見や返却の連絡までに著しく長期の時間が経過していることは、それ自体弁護士として依頼者の信頼を裏切る行為であり、加えて、資料の返還請求等に真摯に対応せずに長時間放置したことは弁護士倫理に違反するものであるとして、弁護士法56条の「弁護士の品位を失うべき非行」に該当するとした裁判例がある(東京高裁平成15年3月26日判決判時1825号58頁)。日頃から、お客様からお預かりした資料等が散逸しないよう、細心の注意を払わなければならない。

 

(3)その他のトラブル

お客様からお金を貸すよう頼まれた場合、債務の保証を依頼された場合、親族の就職保証人になるよう頼まれた場合、断ることはお客様を失うことになりかねないが、弁護士はお金を貸したり保証人を引き受けたりしてよいのだろうか。

これについては、弁護士職務基本規程に依頼者との金銭貸借等に関する規定がある(第25条「弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。」)。

この規定の趣旨は、債権債務(金銭)関係が生じると、お客様との間に力関係が生じて、公平・公正な業務が出来なくなる可能性が生じるためであると説明されている。

関連する例としては、弁護士が借入金債務の弁済についての折衝の依頼を受け合意を成立させたが、依頼者が弁済を怠ったことによる債権者からの執拗な請求を免れるために依頼者の債務を保証する念書を作成したという事案で、さらに弁護士は保証債務を履行せず、その後の訴訟上の和解による履行も怠ったことが、弁護士職務基本規程第25条等に違反し、さらに後者の行為は著しく信義に反するものでありいずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当するとして懲戒処分を受けた例がある(平成22年6月1日日本弁護士連合会 懲戒処分の公告)。

また、若い法務部員が、「仕事を回すからキックバックをください」、極端な場合には「キックバック分を加算して請求してください」と弁護士に要求してくる例もあるそうだが、これにはどのように対応するべきだろうか。弁護士法第72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申し立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。つまり、法務部員が、キックバックを受ける目的で、弁護士と依頼者との委任関係等の成立のために、紹介等の便宜を図ることは、同条に違反する可能性があることを伝えたうえで、断らなければならない。

 

(4)弁護士とクライアントとのトラブルについての例

弁護士とクライアントの信頼関係が損なわれると、両者のトラブルは裁判沙汰にまでなることもある。刑事事件としては、弁護士によるクライアントの金員の詐取・横領、民事事件としては弁護士の説明義務違反が代表例であろう。

弁護士とお客様との間のトラブルで一番多いのは、お客様が弁護士報酬を支払わないというケースである。適正な報酬を得るため、報酬体系やルール、期限など、受任する前にきちんと説明し理解を得ておくことが不可欠であることはいうまでもない。

また、弁護士に対するクレームは不誠実型、単純ミス型、技能不足型の3種類がある。一番多いのは「不誠実型」だ。たとえば、着手金を受け取ったのになかなか弁護士がとりかからないケース等である。現代はスピードが問われる時代だから、クレームも当然である。「単純ミス型」は、仕事について決められた期限があるにもかかわらず、弁護士が忘れてしまう場合などがそれにあたる。

しかし、弁護士が最も意識するべきは「技能不足型」の弁護過誤である。法律が次々と改正され新法や特別法が成立し、解釈も進化するなかで、弁護士が新たな法の存在を知らずに弁護活動をし、まさに無知により失敗を招くケースである。専門的職業人は一度公的資格をとったからと言って、決して安泰ではなく、「生涯勉強第一」でなければならないのである。

以下、比較的最近の事例を挙げてみる。事例を知っておくことが、トラブルを未然に防止する一つの有効な手段である。

 

【民事事件】

① 弁護士報酬未払いについての裁判例(東京地裁平成2年3月2日判決)

 

  • 依頼者は、訴外H社に対する地代増額請求訴訟(本件訴訟)を弁護士に訴訟委任した。H社との和解が成立し、弁護士の委任事務が全て終了したが、依頼者が、弁護士が催告した弁護士報酬を支払わないため、弁護士が訴訟委任契約に基づく謝金支払をもとめ依頼者を提訴し、依頼者は、弁護士の弁護過誤に基づく損害賠償請求を反訴した。
  • 裁判所は、依頼者との間の訴訟委任契約には明示的に謝礼支払約定が存しなかったと認定したが、「弁護士と訴訟依頼者との間の訴訟委任契約は、特別の事情のないかぎり、右明示の約定がなくても相当の謝金を支払うべき旨の暗黙の合意がある有償委任契約と解すべきである」とし、この場合の謝金額は、「訴額、依頼者の得た経済的利益、事件の性質及び難易度、紛争解決に要した労力及び弁護士報酬規定等諸般の事情を斟酌して算定するべきである」と判断した。
  • 結論として、本件訴訟の和解による依頼者の経済的利益に対する謝金標準額(当時の東京弁護士会弁護士報酬規定に基づく)を算定すると865万6544円であるが、解決に長期間を要していること、依頼者が弁護士に説得されたこともあって応じた和解内容(H社の区画整理事業に対する協力条項の挿入および現状有姿返還)については、結局、和解成立後に数回の地権者会議を通しての自らの努力により従来の主張通り区画整理事業を施行することなく原状回復のうえでの賃貸土地の返還の目的を達したこと等諸般の事情を斟酌し、謝金額を800万円と算定した。

 

 

② 弁護士の説明義務違反が認められた裁判例(鹿児島地裁名瀬支部平成21年10月30日判決)

  • 債務整理を受任した弁護士が、事件を辞任するに当たっては、事前に事件処理の状況及びその結果、並びに辞任による不利益を依頼者に十分に説明することが一般的に期待されるにもかかわらず、それらの説明を怠ったとして、債権者から訴訟を提起されたことによって被った精神的損害等を内容とする依頼者からの損害賠償請求が認容された事例。
  • 債務整理を受任した公設事務所所長の弁護士が一方的に辞任通知を債権者に送付したため依頼者が債権者に突然訴訟を提起されて給料の差押えを受けた場合において、弁護士は説明義務に違反し依頼者に精神的苦痛を与えたとして、依頼者から弁護士に対してなされた慰謝料請求が認容された事例(過失相殺2割)。

 

③ 弁護士の委任契約に基づく債務不履行責任が認められた裁判例(東京地裁平成21年3月25日判決)

  • 民事訴訟の提起・追行を受任した弁護士が、提訴までに約7年間という通常必要な合理的期間を超えている場合には、特別な事情がないかぎり、依頼者に対して債務不履行責任を負う。
  • 弁護士が土地明渡請求訴訟の提起を受任してから、訴えを提起するまで約7年を経過している場合に、弁護士に債務不履行責任(慰謝料請求)が認められた事例。

 

【刑事事件】

① 詐欺事案で懲役3年の判決が言い渡された裁判例(大阪地方裁判所平成21年7月16日判決)

  • 著名な刑事弁護士であった被告人が、刑事事件の相談のため被告人のもとを訪れた被害者に対し、事件をうまく処理するために、被害者が管理している現金をしばらくの間被告人の下で預かり、確実に保管した上返還する旨の嘘を述べて、被害者から9,000万円をだまし取った詐欺の事案について、同現金は成功報酬の担保として受け取ったものであったとの弁護人の主張を認めず、懲役3年の判決が言い渡された事例。

第5回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年4月12日(日)7:30 東京都文京区根津神社にてツツジを撮影
花言葉:「節度、慎み」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

(2)黒字化へ向けて一路邁進すべし

  1. 利益を着実に確保するためには、確固たる目標を設定しなければならない。その目標は、最終的には構成員一人一人に具体的に割り付けられなければならない。またその達成度をなるべく細分化して、定期的に頻繁に公開するように配慮しなければならない(EDPの利用)。もちろん当初から赤字予算の計画を立てる等は論外とすべきである。石に噛り付いてでも、ときには蛮勇をふるってでも、昭和●年度には少なくとも収支の均衡を回復することを大命題として貫徹しなければならない。

     

  2. そのための具体的施策を直ちに、全社組織をあげて取りまとめ、実施に移すことが必要である。

    「3年後には黒字にする」とか「各部門の意見や事情をよく聞いた上で」とかいった悠長で容易な“官僚的”姿勢では、管理職者、社員の意識改革は容易に果たされず、赤字体質から脱却しきることは到底不可能となろう。親方日の丸の公務員ですら、今日そのような対応では生きのびられなくなってきているのである。どだい今後3年間に世界経済、日本経済がどのような変化を示すかは誰も予測できないところであり、ましてや将来に何らの保障もないのに、3年後に黒字化を期待するなどということを述べることは、無責任という範囲を超えて不真面目な計画といわれてもしかたのないものである。

    昭和●年度には必ずA社を黒字にすること、少なくとも収支均衡に持ち込む(例え僅かではあれ黒字になる)計画を直ちに策定する必要がある。このため、全社をあげて役員会に直結する「再建策策定委員会」を組織せしめ、1カ月後の答申を厳命して作業にかからせる(人選を誤らぬこと)ことが必要である。

     

  3. A社は従来商売上の“人間(信頼)関係”で勝負せずに、とかく安売りで勝負してきていると言われている。安売りで勝負することを旨とするから、安かろう悪かろうの評に繋がることも、又、そういわれることも当り前として感じてしまう。それではいけない。今日からは人間信頼関係を基調とする商売の道を歩むとする思い入れが必要である。安かろう悪かろうは単に商品にとどまらずA社の企業それ自体、社風をおとしめることになる。

    信じて頼られる関係は、相手の身になって商売するということである。単に商売の面だけで相手の身になっていたのでは、本当の信頼関係は生まれてこない。相手の身になって考えること、すなわち、相手の悩みや欲求に応えること、相手の全人格に配慮する思いやりがあってこそ、真に持続的な営業基盤が確立されることを忘れてはならない。

    商売においては商品を売ることを通じてA社という会社の精神を売るという思い入れが大切なのである。勿論、商売であるから、短期的であれ、長期的であれ利のないものへの思い切りも大切とすべきである。

     

  4. A社は現在、そして将来に亘って売上増を図り、利益増を図らなければならない。そのためには地道な営業努力、すなわち社会的信用を一歩一歩築き直していく営業努力を着実に積み重ねていかなければならない。

     

  5. それには、全社員が自ら率先してこれに当つてこそ、社員の士気をよく鼓舞することになる。また、A社は様変わりをしたと代理店やユーザーを感動させることにもなる。役員が社員の勤務時間中にゴルフに行ったり、遊びの話などで悦に入ったり、新聞を漫然と読んでいたり、ロータリークラブなどに出向いてエリート意識をひけらかしたり(ロータリークラブそのものがどうこういう訳ではなく、本業を疎かにしてはならないという意味である)、あるいは昼日中からうたた寝などをしていて、どうして社員が業務に真剣に取り組むことができるであろうか。

    儲けるとは信ずる者をつくると書く。社員を信じさせることができずしてどうして顧客をつくり、商品を信用して頂くことができようか。役員たる者、今日只今からA社の営業日にはゴルフはしない、社員に弛んだ姿勢はみせないといった極めて当り前の事柄を実践し、日々営業に対して全力投球をしている姿勢を眼の当りに社員に示さなければならない。仮に営業日にゴルフをする必要があっても、その見返りは仕事において必ず実現しているという実績がある者については、社内からとかくの批判は発せられないものである。

     

  6. 全役員が営業に従事しなければならないということは、何より経営は「販売即経営」そのものであることを体感する必要があるからである。販売のないところに企業は成り立たないのである。売り上げがあがるとは、A社の製品が社会の求めるニーズに応えることができたという証である。売上げをあげるには、一体社会のニーズがどこにあるかをA社の全社員が知らなければならない。自ら営業に当たって、その労苦を味わってこそ社会的なニーズを体感することができる。その体感の上に明日を目指すA社を再構築するのである。方向違いな感覚で再建にとり組む愚を重ねてはならない。かくしてこそA社の健全化への道も誤りなく築かれていくのである。

    斯かる点から、全役員が営業に従事することは、単に社員の士気を鼓舞するだけにとどまらず、自らの経営能力をより高めることにも繋がるのである。

     

  7. 社長、会長は率先して全国の代理店・取引先、末端のユーザーを、くまなく、黒字が定着するまで訪問し続けなければならない。世間はA社の社長、会長だからといって甘えを許してはくれない。ユーザーは神様であると思わなければならない。

    訪問先の始業時刻にあわせて、担当セールスマンと共に訪問し、A社の変わらぬ愛顧と新規取引を要請するのである。決して行きやすいところだけを訪問してはならない。叱られ、苦情を言われることに耐え、その屈辱や助言を経営改革のバネにしなければならない。セールスマンはそれを見て育つのである。

    取締役のうち近々退任させる予定の者とか、どうしても長期間席を外せない業務分掌をあずかる一、二の取締役を除いては、担当地域を必ず割り当てなければならない。(担当地域をもてない役員でも月何日かの短期期間出張は可能なはずである。)

    勿論それらの者は直接現地に赴き、販売第一線において陣頭指揮に当たらなければならない。役員が体を張ってセールス活動に徹すれば、顧客はその情熱に自ずと感じ入り、それが自然に営業成績につながり、黒字化へとつながるのである。セールスマンもその意気込みを体感し、多言を要しなくても夫々に活動しはじめるようになる。要するに役員は第一線のセールスマンたれということである。

    因みに、今までにこの方針を断行した再建会社の全てにおいて、陰日向なく実践した者と、要領を決めこんで逃げを打った者との間に、その後雲泥の差が生じた実績があると聞いている。

 

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