(2011年5月23日 朝07:02 東京都渋谷区 代々木公園にて撮影)
さて、前回5月25日第13回の記事では、被災地の復興についての方針、そして日本全体の復興についての方針を述べましたが、今回は、それらの復興の方針を行うために、日本人は、「心の立て直し」をすることが必要である、ということを改めて述べたいと思います。
【復興に向けて「心の立て直し」を】
今、被災地の方々や、復興に向けて努力されている方々の、最悪の事態に立ち向かい、連帯しているお姿を拝見すると、感銘を受けるばかりです。彼らには、自制心と連帯、互助の精神で毅然と行動できる「日本人の心」が存在しています。(「日本人の心」については、5月18日付第11回記事もご覧ください)
米国・中国も含め、各国の海外メディアでも、被害の事実報道やお見舞いの言葉に留まらず、被災地の方々の人間としての真摯さと、秩序だった社会を称賛し、復興努力を期待・激励する論調が相次いでいます。
また、4月24日付のJ-CASTニュースは、「『私は、略奪や買い占めに走らなかった日本の人たちをとても誇りに感じることができました。日本で今起きていること、日本の人々がとった行動や勇敢な行為について報道で知り、私は同じ人間として強く共感しました。』(「マイケル・サンデル 究極の選択 大震災特別講義 私たちはどう生きるか」NHK総合2011年4月16日21時〜)」という、米国・ボストンの女子大生の言葉を紹介しています。
私は、特に東北地方の方々には、今の東京の若者にはない、「日本人の心」という精神的な強さや豊かさがあるように感じます。「東北が(震災に)選ばれてしまった」という言い方が正しいかどうかは分かりませんが、仮に震災が東京に直撃していたら、世界中にパニック映像が流れ、海外の人々が日本から今以上にどんどん去り、日本は終わりだったかもしれません。
今こそ、かつての精神的先進国であった日本が、身を持って世界に正しい生き方を示し、リードしていくべきです。ですから、軽視してきた日本人の心を、今、改めて見直し、より一層の徹底をはかるという「心の建て直し」こそ肝心・肝要なことだと思います。
【「不朽・不屈の精神」を胸に、「貧しくとも美しく生きる」】
3月19日付の日経新聞夕刊(第4面)は、ソニーのハワード・ストリンガー会長が、3月18日付の米紙ウォールストリートジャーナルに「日本人には不屈の精神がある。難局を必ず乗り越える」と寄稿されたと報じています。
私たち日本人は、この度の震災後の現実を受け入れ、勇気を持って逆境に耐えることのできる精神的強さ、すなわち、「不朽・不屈の精神」を胸に、「貧しくとも美しく生きる」という日本人の本来持っている姿、すなわち「日本人の心」の真骨頂を発揮すべきだと思います。この苦しみから、人々が協力し合い、英知を出し合い、次世代へのステップの足がかりとするのです。
【寺田寅彦の「日本人の自然観」】
さて、寺田寅彦氏(1878年~1935年)は、科学者でありながらも、文学など自然科学以外の事柄にも造詣が深く、科学と文学を調和させた随筆を多く残した方です。最近の若い方は、寺田寅彦のお名前もご存じないかもしれませんが、私は、学生時代に寺田氏の随筆をよく読んだ記憶があります。
「寺田寅彦随筆集 第五巻」(1948年11月20日発行)の中に、「日本人の自然観」という随筆がありますが、そこで寺田氏は下記の通り述べています。
「こうして発達した西欧科学の成果を、何の骨折りもなくそっくり継承した日本人が、もしも日本の自然の特異性(注・寺田氏は、日本の自然の特異性について、日本は地質地形が複雑で、地震ならびに火山の地殻活動の現象は、日本の複雑な景観の美を作り上げる原動力となった、と述べています)を深く認識し自覚した上でこの利器を適当に利用することを学び、そうしてただでさえ豊富な天恵をいっそう有利に享有すると同時にわが邦に特異な天変地異の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく世界中で我邦ほど都合よくできている国は稀であろうとおもわれるのである。しかるに現代の日本ではただ天恵の享楽にのみ夢中になって天災の回避の方を全然忘れているように見えるのはまことに惜しむべきことと思われる。」
日本が近代科学技術を導入して、富国強兵・殖産興業のもとで国つくりをしてまだ143年しかたっていません。科学技術は、人間の生活を豊かにする道具として間違いなく有益なものでありますが、この有益性ばかりに夢中になって、天災の回避を怠っていると、寺田氏は述べているのです。
こういった人間の驕りを最小にするためには、教育にあることは火を見るより明らかでしょう。この度の原発を巡る諸問題も、この点に集約されると思います。
ですから、若者はもちろんおよそ日本人は、寺田寅彦の著書をはじめ、古典(古い書物)を読む、ということをしなければなりません。最近の傾向である、安直なノウハウ本とか、ハウツー本だけしか読まないのではいけません。それでは日本人は廃れ、日本は危ぶまれてしまうことは言うまでもないからです。
高井・岡芹法律事務所
会長弁護士 高井 伸夫
(次回に続く)