新卒入社者(正社員)の中に、大学を休学していた者がいます。履歴書には、その事実の記載はあるものの、期間や理由について記載されていなかったため、採用面接時に休学の理由を尋ねたところ、「社会的視野を広げ、困っている方を支援するためボランティア活動をしていた」とのことでした。しかし、入社3カ月ほどで病気を理由に会社を休みがちになり、産業医を受診させたところ、うつ病と診断され「休学も当該疾患が原因で、ボランティア活動は1カ月程度しか行っていなかった」ことが判明しました。休学に関して虚偽の申告を行っていたことを理由に解雇できるでしょうか。

解雇処分に一定の合理性はある。但し、裁判例等に鑑みると、業務内容等によっては、解雇処分が無効と判断される可能性も否定できない。

1.企業の採用面接での駆け引きについて

企業が実施する新入社員の採用活動においては、さまざまな要素を総合考慮して応募者の採用の可否を判断することが多いと思います。

そして、応募者は、採用面接において、採用内定を得るために、自身の経歴等について、多少誇張して回答することがあり得ます(企業側においても、是非とも入社してほしいと考える応募者に対して、自社のよいところなどを多少誇張して説明し、より関心をもってもらおうとすることはあり得ます)。

企業の採用担当者としても、当然のことながら、応募者が採用面接におけるやりとりの中で、多少の誇張をすることがあるということは想定しており、だからこそ応募者の話に矛盾がないかなどを採用面接においてさまざまな質問をする中で確認しています。

2.経歴詐称について

前記のとおり、採用面接においては、労使の間で多少なりとも駆け引きがなされますが、入社後に、採用面接における応募者の申告内容と異なる事実が発覚することがあります。

これは一般に学歴虚偽や犯罪歴の秘匿等の「経歴詐称」と言われるケースですが、入社後にこのようなことが起こった場合、使用者が当該労働者に対して経歴詐称を理由として懲戒解雇を含む解雇処分を検討することがあります。

この点、「雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う」(炭研精工事件 東京高裁 平 3. 2.20判決 労判592号77ページ、最高裁一小 平 3. 9.19判決 労判615号16ページ)とされているため、労働力評価に直接関わらない事項について虚偽申告がなされたケースであっても、経歴詐称として懲戒事由に該当する可能性はあるといえます。

もっとも、経歴詐称を理由に懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇とする場合、そこには一定の制限があり、懲戒解雇が有効とされるには、雇用契約という観点からみて「重要な経歴の詐称」であることを要すると解されています(菅野和夫『労働法 第11版補正版』[弘文堂]665ページも同旨)。

3.ご質問のケースにおける解雇の有効性

ご質問のケースにおいては、休学理由について虚偽の申告をしていたことを理由に解雇が検討されています。

この点、被申請人である学校法人に大学講師として採用されていた申請人が、採用時に被申請人に提出した履歴書の学歴欄に、T大学大学院在学中の休学の事実を記載していなかったことなどを理由に解雇されたという事案において、「学校在学中に休学期間があるということは、通常その理由が健康、性行等の評価上重要な意味をもつことがあるにしても、直接学業成績を左右するものではないし、休学期間中といえども、当該学校の学生の身分を失うわけではなく、履歴書の在学期間の表示が、当然にその期間中学術の研究に専念したことを意味するものでもないから、申請人が前記の大学院休学の事実を本件履歴書に記載しなかったことをもって、申請人が学歴を詐称したということはできない」と判示した裁判例があります(九州学院大学事件 鹿児島地裁 昭48. 5.14判決 労判179号53ページ)。

ご質問のケースでは、直接的には休学理由の虚偽申告を理由に解雇を検討していますが、解雇を検討するに至った背景事情としては、休学理由がうつ病であったこと、および入社後3カ月ほどで病気を理由に会社を休みがちになり、その原因がうつ病であったことが大きな要因となっているように思われます。

企業が採用の可否を判断するに当たって、うつ病の罹患(りかん)歴があることが労働力評価に直接関わるか否かについては、職種等により解釈が分かれる可能性がありますが、応募者の健康状態がその判断要素となり得ることからすれば、解雇という判断に一定の合理性は認められると考えられます。

もっとも、上記裁判例において、「学校在学中に休学期間があるということは、通常その理由が健康、性行等の評価上重要な意味をもつことがあるにしても、直接学業成績を左右するものではない」と判示されていること、現状の勤怠についても、休みがちという程度にとどまっていること、現在多くの企業では、休職規程が整備されていることなどからすると、職種の特性上、採用の判断の際に、特に精神疾患の罹患歴がないことが重要視されていたといった事情がない限りは、「重要な経歴の詐称」とまではいえないとして、懲戒解雇を含む解雇処分が無効とされるリスクも否定できないと解されます。

以上

労務行政研究所「労務行政」第3938号126頁掲載「相談室Q&A」(帯刀康一)を一部補正の上転載