当社では社内のコミュニケーションを円滑にし、業務連絡をスピーディーに行うツールとして、チャットアプリを会社支給のパソコンに導入しています。しかし、ある部署内で業務時間中に私的なチャットが頻繁に行われていることが発覚しました。業務連絡等もその中でなされているようですが、業務内容と私的なチャットが混在する場合でも、懲戒処分を科すことは可能でしょうか。

チャットの頻度・時間・内容、影響・支障の有無・程度、注意指導の有無、他の従業員の利用状況等によって懲戒処分の可否・程度は異なるが、頻繁に行われているのであれば基本的には職務専念義務違反による懲戒処分は可能

1.問題の所在

IT企業などを中心にチャットアプリを利用している企業が増えています。チャットアプリにより、複数人でのメッセージのやりとりや情報共有が簡単にできるようになりますが、その反面、社員が業務と関連しないチャットを頻繁に行うようになって問題となるケースも生じています。

社員には労働契約上の職務専念義務が課されており、業務時間中に私的行為をしてはいけないということは広く認知されていると思います。もっとも、私的行為をしてはいけないといっても、例えば、業務時間中の雑談は、短い時間であれば不問に付されている場合のほうが多いかと思います。また、ご質問では、業務内容と私的なチャットが混在しているとのことであり、この時間からこの時間まで完全に私的行為をしていたとは言い難いケースであり、懲戒処分ができるとしても、どの程度の処分ができるのかという問題もあります。

そこで、以下では、①職務専念義務違反といえる私的チャットの態様とはどのようなものか、②懲戒処分の可否・程度について見ていきます。

2.①職務専念義務違反といえる私的チャットの態様とはどのようなものか

近時過度の私的なチャットを理由になされた懲戒解雇の有効性が争点になった裁判例(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁 平28.12.28判決 労判1161号66ページ:懲戒解雇有効)が出ており、ご質問のケースにおいて参考になるところです。裁判所は「チャットの時間、頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導及び処分歴の有無等に照らして、社会通念上相当な範囲内といえるものについては職務専念義務に反しない」としています。そして、この事件では、約7カ月間で合計5万158回の私的チャットが行われており、チャット1回当たりに要した時間を1分として計算すれば(ただし、同じ時分になされたもの及び業務に関連するものは除く。)、概算で1日当たり300回以上、時間にして2時間程度チャットをしていた計算になるとして、「チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得」ないと判断しています。

この点、ご質問では、私的チャットが頻繁に行われているとのことですが、どのくらいの期間で何回くらい行われているのか具体的に確かめる必要があります。

なお、上記事件は職務専念義務違反を認定しやすいケースといえますが、もっと微妙なケースとしては、例えば、トラストシステム事件(東京地裁 平19. 6.22判決 労経速1984号3ページ:普通解雇無効)は、6カ月の間に1700件余りの私的なやりとりなどがあったケースで(筆者の単純計算で、1日十数通程度)、裁判所は職務専念義務に違反すると判断しています(ただし、解雇理由として過大に評価することは疑問が大きいとして解雇は無効としています。)。他方、グレイワールドワイド事件(東京地裁 平15. 9.22判決 労判870号83ページ:普通解雇無効)は、1日2通程度の私用メールを送受信していたケースで、裁判所は、社会通念上相当な範囲内にとどまり、職務専念義務には違反していないと判断しています。これらの裁判例からすると、チャット一つひとつの分量等にもよりますが、1日数回程度では職務専念義務違反にはならない可能性があります。

なお、ご質問では、業務内容と私的なチャットが混在しているとのことであり、この時間からこの時間まで完全に私的行為をしていたとは言い難いケースのようです。この点、私的チャットをしていた時間の労働時間性を争うのであれば、業務内容と私的なチャットが混在していることは大きな障害になりますが、職務専念義務違反との関係でいえばあまり問題にはならないと考えます。

実際、上記ドリームエクスチェンジ事件で、会社は、私的チャットをしていた時間の労働時間性を争い、給与の過払いがあるとして反訴を提起しましたが、裁判所は、「明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難である」などとして、会社の主張を退ける一方で、職務専念義務違反との関係では、上記のとおり、概算で1日当たり2時間程度チャットをしていた計算になるとして、職務専念義務違反を認めています。

3.②懲戒処分の可否・程度

上記ドリームエクスチェンジ事件で、裁判所は、「職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になる」としています。そして、チャットの態様既述、悪質性の程度(チャットで顧客情報の持出教唆、会社の信用毀損、他の社員への誹謗中傷、女性社員に関するセクハラ発言をしていたこと)、チャットにより侵害された企業秩序に対する影響(会社の信用が毀損され、現に当該社員の発言により転職を検討していた社員がいたこと等)、発覚後の本人の態度(私的チャットのやりとり自体を否定していたこと)、他の従業員との処分の均衡(本件私的チャットを主導的に行っていた社員も懲戒解雇になっていること等)を考慮した上で、懲戒解雇を有効と判断しています。

一方、私用メールなどを理由とする減給処分の有効性などが争点になった全国建設工事業国民健康保険組合北海道東支部事件(札幌地裁 平17. 5.26判決 労判929号66ページ:減給処分無効)で、裁判所は、私用メールのやりとりが約7カ月間で28回にすぎず、1回の所要時間も短く、内容的にも業務関連のものが少なくないこと、パソコンの私的利用に対して注意等なされたことはなく、管理職においても私的利用の実態があったことなどから、減給処分を無効と判断しています。

以上の裁判例のように、私的チャットに対する懲戒処分の可否・程度は、チャットの頻度・時間・内容、当該チャットによる影響・支障の有無・程度、私的チャットに対する注意指導の有無、他の従業員の利用状況等を踏まえて判断されます。

ご質問のケースでいえば、例えば、チャットの頻度・時間が業務に支障が生じているほどではなく、当人がこれまで注意指導等されたこともないのであれば、内容的にかなり悪質なことが記載されている等の事情がない限り、基本的には厳重注意(非処分)または軽めの懲戒処分(けん責)程度が相当と思います。チャットの頻度・時間が多く、現に業務に支障を生じさせているか、そのおそれがある場合や、これまで注意指導を受けていたのにまた私的チャットをしていた場合などは、より重い処分にすることは可能と考えます(具体的事実関係に応じて減給から降格まで考えられます)。懲戒解雇・諭旨解雇処分ができるケースというのは、上記ドリームエクスチェンジ事件が限界事例というわけではないと思いますが、相当悪質なケースに限られるでしょう。なお、懲戒処分に当たっては、公平性も考慮されますので、これまでに私的チャットを行っていたことが発覚した社員に対して会社がどのような対応をしていたのかも踏まえて検討する必要があります。

以上

労務行政研究所「労務行政」第3950号126頁掲載「相談室Q&A」(渡辺雪彦)に一部加筆補正の上転載