うつ病で3カ月間休職している社員がいます。当社では、1年6カ月の休職制度がありますが、当該社員の復職の可能性や今後の作業効率を考えると、できれば解雇予告手当を支払って解雇し、新たに新規採用を行いたい意向です。産業医によれば、同人のうつ病は時間外労働の多さだけでなく、私生活上のトラブルともある程度関わりがあるとの診断が出ていますので、こうした対応を行っても問題ないかと考えますが、いかがでしょうか。併せて留意すべき点があればご教示願います。

1 解雇に対する法規制

まず、解雇については、労働契約法(以下、労契法)16条が、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。

これは、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」との日本食塩製造事件の最高裁判決(最高裁二小 昭50. 4.25判決 労判227号32ページ)や、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」との高知放送事件の最高裁判決(最高裁二小 昭52. 1.31判決 労判268号17ページ)が明文化されたものです。

また、ご質問との関係では、労働災害による負傷・疾病の療養中の解雇を禁止する、労働基準法(以下、労基法)19条1項の「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない」との規定が適用される可能性があります。

解雇をする際に、労基法20条に定められている解雇予告手当を支払うことはもちろん必要なのですが、これは手続的要件にすぎず、その前提として、労契法16条の要件を満たすことや、労基法19条の解雇制限規定に当たらないことといった実質的要件を満たす必要があります。

 

2 休職制度の法律上の意味合い

ご質問のケースでは、まず、当該社員に、まだ1年3カ月の休職期間が残されている点が問題となります。

休職制度は、法律上の制度ではありませんが、使用者が就業規則上の制度として設けた以上は、労働者はこの制度の目的に沿う範囲内で制度の適用を受け得ることになります。そして、ご質問のケースのような休職制度の目的は、労働者が傷病によって労務を提供することができない場合に、直ちに解雇するのではなく、解雇まで猶予を認める点にあると考えられます(菅野和夫『労働法 第11版補正版』[弘文堂]697ページ)。

そうすると、当該社員に休職期間が残存しているにもかかわらず、当該社員を解雇することは、解雇猶予という制度目的に反することになり、労契法16条に規定する解雇権の濫用に該当するとして、無効となる可能性が高いといえます。

ご質問では、会社が解雇を考えている理由は、当該社員の復職の可能性、今後の作業効率、およびうつ病の原因が私生活上のトラブルともある程度関わりがあるという診断結果とのことです。しかし、休職期間が残存している状況での解雇を有効に行うためには、そのほかに、当該社員の復職可能性がまったくないことや、復職後の作業効率が普通解雇レベルであるといったことが、現時点で確実であるという例外的な事情が必要であると考えられます。

例えば、裁判所は、トラックの運転手が脳梗塞により運転業務に就くことが不可能な状態になったことを理由に、3カ月の休職期間を適用せずに当該運転手を普通解雇した事案で解雇の有効性を認め(岡田運送事件 東京地裁 平14. 4.24判決 労判828号22ページ)、心肺停止状態に陥り低酸素脳症による高次脳機能障害を負った公庫職員に客観的に就労能力がないと認め、公庫がこの職員に休職命令を発令しなかったことについて違法性を認めませんでした(農林漁業金融公庫事件 東京地裁 平18. 2. 6判決 労判911号5ページ)。しかし、ご質問では、そこまでの事情は、少なくとも現時点では存在しないようです。

また、別の問題として、現時点で解雇した場合には、労働者から解雇無効を主張されるだけでなく、休職前の長時間労働が原因でうつ病を発症したとの主張がなされ、(長時間労働の程度にもよりますが)後者の主張が労災認定に至った場合には、使用者としては、就業規則に基づく、休職期間満了を理由とする解雇(あるいは退職)もすることができなくなることが想定されます。

 

3 現実的対応

当該社員を解雇するためには、上記のような休職期間満了までに回復する見込みがないことをうかがわせる事情を会社側で集めることが必要ですが、そのような対応は現実的に困難であると思われます。

また、上記のような労災認定のリスクもある以上、当該社員への現実的な対応としては、休職期間満了を待って復職の可否を判断し、復職が不可能であれば就業規則に基づいて解雇(あるいは退職)をすることであると考えます。

また、将来的には、このようなケースに対応するため、休職期間を短縮する方向で就業規則を改定することや、長時間労働によってうつ病を発症したとの主張がそもそもなされないように、労働時間の削減や社員のメンタルケアを行うことが適切でしょう。

以上

 

労務行政研究所「労務行政」第3936号132頁掲載「相談室Q&A」(小池啓介)に加筆補正のうえ転載