以前から業務上のミスが多く、注意してもなかなか改善されない社員がおり、発達障害ではないかと疑っています。本人がそれを認識していない場合、病院で受診させたほうがよいでしょうか。あるいは、業務命令として専門医への受診を命じることは問題ですか。また、同僚とのコミュニケーションがうまくいかない原因とも考えられることから、周囲の理解・協力を得るために、職場でどのように説明・意識啓発をすればよいかも併せてご教示ください。

前回からの続き)

2 発達障害があると疑われる社員に対する対応

(1)専門医の診断を受けさせる必要性

ご質問では、以前から業務上のミスが多く、注意してもなかなか改善されないといった問題行動を起こしている社員が発達障害ではないかと疑っているということですが、前回説明したとおり、発達障害は診断が難しいとされています。つまり、素人判断で発達障害であると断定することはできず、本当に発達障害であるのか、発達障害であるとして今後会社としてどのように対応していくべきか、といった点について、専門家の意見を聴取して最終判断する必要があります。

したがって、ご質問のようなケースでは、問題行動を起こしている社員に、専門医の診断を受けさせることが極めて重要になります。

 

(2)専門医の診断を受けさせる方法・留意点

問題行動などから発達障害の可能性が考えられる社員に専門医の診断を受けさせる方法としては、①任意で専門医の診断を受けるよう勧める(要請する)という対応と、②業務命令として専門医の受診を命じるという対応が考えられます。

まず、上記①の対応を取ることの可否については、あくまでも社員が任意に受診をするよう合意を得る場面であるため、発達障害を疑う一応の事情があり、受診の勧め方に一定の配慮があれば可能といえます。

次に、上記②の対応を取ることの可否については、まず、就業規則に健康診断の受診命令等を定めている場合は、合理的な理由があれば、専門医の受診を命じることが可能と解されます(参考判例として、電電公社帯広局事件 最高裁一小 昭61・3・13判決 労判470号6頁)、また、就業規則に健康診断の受診命令を定めていない場合であっても、会社は社員に対して安全配慮義務を負っていることなどから、これも、個別具体的事情において合理的な理由があれば、専門医への受診を命じることが可能と解されます(参考判例として、京セラ事件 東京高裁 昭61・11・13判決 労判487号66頁)。

もっとも、特に、上記②の方法を取る場合には、発達障害であると疑うに足る合理的な理由が必要となりますが、実務上、明らかに不自然・不穏当な言動などがあるケースを除いて、その合理的な理由の有無が難しいケースが散見されます。

ご質問でも、業務上のミスが多い理由が、個人の性格の問題なのか、それとも発達障害に起因するものなのか、その区別が必ずしも容易ではないという問題があります。また、特に上記②の方法を取った結果、発達障害ではないと診断された場合には、社員との間で合理的な理由の有無に関し紛争になる可能性も考えられます。

したがって、会社として合理的な理由の有無を判断する場合、問題行動等の発達障害をうかがわせる事情を慎重に検討して判断する必要があります(もっとも、第一的に会社として判断する以上、当然のことながら専門医レベルの判断能力までが要求されるものではありません)。

ご質問では社員の問題行動の具体的な内容が不明ですが、業務上のミスの内容、ミスに対して会社が行った注意・指導の内容、注意・指導した際の本人の言動(明らかに不自然な言動の有無等)、注意した後の改善状況(他の社員に注意・指導した場合とどのように異なるのか)、といった状況から発達障害を疑う合理的な理由の有無を判断することになりますが、専門医の受診を勧める(命じる)ことの正当性を担保するためにも、上記事情についてはその都度、記録化しておくこと、ひいては告知書(通知書)の形式で当該社員に確認、伝達しておくことが肝要です。

 

(3)まずは任意での受診を勧めるのが妥当

以上のとおり、専門医の診断を受けさせる方法として、上記①、②のいずれの方法を取ることも可能ですが、社員に対して発達障害の可能性があることを伝えること自体が、当該社員に相応の精神的な負担を与える可能性があることに鑑み、実務上は、まずは上記①の方法を試みるのが穏当といえます。また、社員との間で紛争となることを可及的に回避するためにも、数回は任意での受診を要請し、それにもかかわらず任意での専門医の受診を拒否され、かつ、その間も問題行動が継続しているという状況となった場合に、はじめて上記②の方法を取るのが望ましいところです。そして、そのような対応をしたにもかかわらず受診命令をも拒否した場合は、懲戒処分等を検討することになります。

(次回に続く)

 

労務行政研究所「労務行政」第3856号164頁掲載「相談室Q&A」(帯刀康一)の中ほど3分の1に一部修正のうえ転載