元従業員から、突然「通知書」と題する配達証明付の內容証明郵便が届き、「私は在職時に、毎日数時間のサービス残業をしていました。ついては、未払の残業代●●万円をただちに支払ってください。支払わない場合は、労基署に申告し、また弁護士に依頼します。」と記載されています。初期対応として、どのように対応すべきでしょうか。

担当者 高亮 弁護士

(1)内容証明郵便による請求が有する意味

内容証明郵便は、いつ、どのような内容の郵便物が誰から誰に差し出されたかを郵便局(日本郵便株式会社)が証明する制度です。内容証明郵便を用いることで、いつ、誰がどのような意思表示を誰に対して行ったかが公的に証明され、また、催告による時効の中断(民法153条)等があったことを証明することができますので、紛争になることを見据えて、予め請求の内容を通告するのに用いられることが一般的です。

そのため、元従業員が内容証明郵便により残業代請求をしてきたということは、会社が請求を拒否した場合、裁判等の更なる法的措置を取ることを見据えている可能性が高いと考えられ、会社としても、そのような可能性を考慮して、対応を検討する必要があります。

 

(2)事実関係の確認

この残業代請求に対しどのように対応すべきか検討するためには、まず、元従業員の主張が法的に認められる可能性が高い(未払残業代がある)ものか、それとも、そうではない(未払残業代が存在しない)のか、事実関係を確認する必要があります。

なぜなら、(1)で述べたとおり、請求を拒否した場合更なる紛争に発展する可能性を考慮する必要があるところ、元従業員の請求が認められる可能性が高いのであれば、争ったとしても最終的に敗訴するリスクが高いため、交渉による早期解決を図るべきですし、そうでないのであれば、請求を拒否するとともに、紛争に備えて証拠の収集・保存等に着手すべきだからです。

本件では、元従業員はサービス残業による未払残業代の存在を主張していますので、元従業員のタイムカードと賃金台帳等を付き合わせて支給額が合っているか確認するとともに、PCのログイン・ログアウトの記録、メールの送信履歴、入退館記録、社内の防犯カメラの記録といった他の資料を確認し、上司からヒアリングも行って、タイムカードに反映されていない労働時間等がないか確認する必要があります。また、もし元従業員について、管理監督者や事業外みなし労働時間制等の特別の制度が適用されるため、残業代を支給していないということであれば、それらの制度の適用が法律上有効となるために求められる要件をみたしているかについても、確認を行う必要があります。

 

(3)内容証明郵便への最初の回答

(2)の調査、特に、タイムカードに反映されていない労働時間の有無の調査にはかなりの時間を要することが多いと考えられます。元従業員の内容証明郵便では、未払残業代を「ただちに」支払うよう求めているところ、調査が完了するまで何の回答もしないと、元従業員が内容証明郵便に記載したとおり、労基署への申告や弁護士への依頼がなされ、紛争が拡大するリスクが高まる上に、「会社は何の回答もしないという不誠実な対応をした」などと、元従業員に攻撃材料を与えかねません。

そのため、元従業員の内容証明郵便に対しては、速やかに、

①内容証明郵便を受領したこと

②事実関係について確認し、確認した内容を踏まえて、真摯に対応すること

③事実関係の確認には、一定の時間を要するので、●月●日を目途に回答する予定であること

(従業員の請求が曖昧であるような場合は、②③の代わりに、請求の趣旨について明確化するよう求める内容にすることも考えられます。)

といった内容を記載して、配達証明付の内容証明郵便で返答しておき、会社としては元従業員の請求に誠実に対応していることを証明できるようにしておくことが適切です。

以上