本年5月26日に民法の一部を改正する法律が成立し、同年6月2日に公布されました。

民法は近年、現代語化等の改正はありましたが、今回の改正は約120年ぶりの中核的な部分に関する大改正です。これまでの判例法理を明文化した点が多いのですが、とりわけ、①時効、②保証、③定型約款、④売買の4つの制度の改正は新聞・ニュース等でも話題となった要注意な改正であるといえます。


(1)時効

まず、時効制度では、消滅時効制度の改正が重要であり、そのポイントは次の3点です。

  1. これまで1年、2年、3年、5年、10年と区々であった債権の消滅時効期間が、原則として、主観的起算点(権利行使ができることを「知った」時)から5年間、客観的起算点(権利行使ができる時)から10年間というように統一されました。
  2. もっとも、安全配慮義務違反により生命身体が侵害された場合の損害賠償請求権については、客観的起算点から20年間とされるなど例外も存在します。
  3. もう一つの例外として、不法行為に基づく損害賠償請求権については、人の生命身体に対する不法行為か否かで区別され、人の生命身体に対する不法行為の場合には、「損害及び加害者を知った時」という主観的起算点から5年間の時効期間となりますが、それ以外の場合には3年間のままです。他方、従前除斥期間とされていた20年の権利消滅期間については、その性質が消滅時効であるとされた上で、客観的起算点に係る時効期間として残ることとなりました。

以上を簡単にまとめますと、以下の表のとおりです。


原則:債権一般 主観的起算点から5年間
客観的起算点から10年間
例外1:不法行為(物損)に基づく損害賠償請求権 主観的起算点から3年間
客観的起算点から20年間
例外2:不法行為(人損)や安全配慮義務違反による人の生命身体侵害に基づく
損害賠償請求権
主観的起算点から5年間
客観的起算点から20年間
 

次に、時効制度の中でも、時効の完成を妨げる制度についても次のような改正がなされました。

  1. 進行していた時効期間が一旦停止するか振出しに戻るかによって、時効の停止・中断という制度に分けられていましたが、これを時効の完成猶予・更新という制度に改めました。裁判上の請求等によって権利が確定した場合や債務者の承認が成された場合に時効が更新する(振出しに戻る)こととされ、それ以外の場合には、未だ権利の存否が暫定的等の理由により一定期間時効の完成が猶予される(進行が一旦停止する)ものとされました。
  2. 時効の完成猶予の中で、とりわけ注目すべきは、「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」の制度です。これまで、債権の存在を前提として金額のみを協議するだけでは債務の承認には当たらないとされていましたが、このような協議中は、一定期間、時効の完成が猶予されることとなりました。


(2)保証

保証(個人保証)の改正のポイントは、個人根保証の規制の拡大です。個人根保証については、平成16年改正により、個人が貸金等債務の根保証を行う場合の規制が既に設けられておりました。 改正後の民法においては、個人が貸金等債務の根保証を行う場合に限定することなく、全ての個人根保証を対象として、過剰な負担による生活の破壊を防止するための規制が設けられました。 個人根保証制度の改正の概要は以下の表のとおりです。

 改正前改正後
貸金等根保証貸金等根保証以外
規制対象 貸金等根保証(法人保証は除く)に限定される。 貸金等根保証に限定されず、全ての個人根保証が対象となる。
規制方法 極度額の上限を定める必要あり 同左 同左
書面による必要あり 同左 同左
原則5年以内で元本確定日を定める必要あり 同左 制限なし
元本確定事由の法定 同左 主債務者が民事
執行を受けた場
合や破産手続開
始決定を受けた
場合を除いて、
同左
法人根保証契約の求償権保証による規制の潜脱が制限される 同左 同左

また、事業に係る債務についての保証契約や主債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証については、一定の要件を満たした公正証書の作成による必要があります。



(3)定型約款

改正後の民法が規律する定型約款とは、これまで世の中にある「約款」という名前が付くもの全てを想定しているわけではなく、①不特定多数の相手方との間で、②取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引(これを「定型取引」といいます。)において、③契約内容とすることを目的として特定の者により準備された条項の総体をいうとされております。

この①から③を充たす典型例としては、預金規定やコンピュータソフトウェアの利用規約が挙げられますが(部会資料86-2の2頁)、一方で、労働契約は相手方の個性に着目して締結されますので上記①を欠いているとされます。また、事業者間取引においては相手方の個性に着目してなされたりするという理由から上記①を欠いていたり、事業者間のパワーバランスにより画一的な契約とされているものは必ずしも合理性を有するとはいえないという理由から上記②を欠いていたりするため、事業者間取引における契約の多くは定型約款に該当しないとされます(同資料の1頁ないし2頁)。

この定型約款を契約の内容とする旨の合意をするか、又は定型約款を準備した者が予め定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していたときには、定型約款の個別条項にも合意したものとみなされます。

もっとも、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反するような不当な条項や不意打ちとなるような条項はみなし合意から除外されることになります。

その他にも、定型約款の開示請求や定型約款の変更についても規律が設けられております。



(4)売買

売買においては、改正前、瑕疵担保責任と呼ばれていた制度について、大きな改正がなされました。

まず、「瑕疵」という難解な言葉が「契約の内容に適合しない」という表現に改められました。この「契約の内容に適合しない」という要件は、合意内容や契約書といった形式的な記載だけではなく、有償・無償といった契約の性質や目的、さらには当該契約締結に至った経緯などの一切の事情に基づき、取引通念に照らして総合的に判断されます。ですから、契約書上、「A」という機械が取引の目的物として記載され、それが一般的にはaという性能のみを備えているものであったとしても、当該当事者が当該売買契約に至る過程に照らしてみれば、bという性能も備えているべきものと解釈される場合には、Aがaのみならずbという性能を有していなければ、「契約の内容に適合しない」ことになります。

このように、売買の目的物が「契約の内容に適合しない」場合、買主の救済手段としては、これまでの解除及び損害賠償請求のほかに、追完請求権及び代金減額請求権が新たに設けられました。これらの救済手段からどの手段を選ぶのかは、買主の自由となり、解除と損害賠償請求権などのように両立する複数の手段であれば併存的に行使し、他方、相互に矛盾する手段を複数選択する場合には、主位的、予備的というように、順位を付けて救済手段を行使することになるものと考えらます。

一方で、少々不具合が生じており補修すればきちんと使えるような場合にまで、買主の解除を認める必要はないので、買主に不相当な負担を課することにはならないような場合には、売主が追完することができることされました。

このような買主の救済手段には、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に不適合を通知しなければ、権利行使できなくなるという期間制限が設けられております。この点は改正前の民法と同様です。この期間制限は、当該1年以内に権利行使を行うべき期間とされ、(1)で述べた消滅時効期間ではないため、時効の完成猶予・更新といった制度は適用されません。



以上のほかにも民法総則及び債権法部分に関して改正がなされております。今回の改正民法は2017年6月2日から3年以内に施行するとされており、2020年のオリンピックイヤーでの施行が予想されるところです。そのため、その経過措置についても注意が必要です。

民法改正の情報につきましては、法務省HPをご参照頂くと宜しいかと存じます。