団体交渉では、使用者は組合に対してどの程度説明しないといけないのでしょうか?

使用者には、労働組合の要求・主張を容れたり、譲歩する義務まではなく、労使で十分な討議を尽くした結果、双方の主張が対立したまま交渉が打切りとなることは不当労働行為ではありません。

しかし、一方で、使用者は、団体交渉にただ応じさえすればよいというものではなく、自己の主張を労働組合が理解し、納得することを目指して、見解の対立を可能な限り解消させることに努め、誠実に団体交渉をする義務があるものと解されています。そして、使用者が当該義務を尽くさない場合は、不当労働行為(労組法7条2号)に当たるとされています。

 

上記義務を果たしたと言えるためには、過去の労働委員会の命令例を見るに、使用者は、自己の主張・回答について、その結論を述べるだけではなく、その根拠を具体的に説明する必要があります。

例えば、組合が、電話及び郵便物の取次ぎ、電話及びファクシミリの使用、組合掲示板の設置などの便宜供与を求めたのに対し、学園が、便宜供与を行うことにより生ずる具体的な支障について何ら触れるところなく、一切の便宜供与を拒否し、組合が歩み寄りを示したりしても、学園は、「組合の自主性を尊重するため」と述べるのみで具体的な協議に入らないまま、一切の便宜供与を拒否し続けたという事案で、労働委員会は、学園の交渉態度は誠実に団体交渉に応ずべき使用者としての義務を果たしていないとして、不当労働行為に当たると判断しています(星美学園事件・東京地労委平成14年9月3日)。

 

また、必要に応じて、使用者は組合に対して根拠資料を提示して説明する必要もあります。この根拠資料については、組合が要求した一切の資料を提示しなければならないというわけではありません。ただ、会社の主張を組合が検証しうる程度の資料を提示する必要があります。

なお、根拠資料を組合に提示できないという場合もあると思いますが、その場合は、提示できない合理的な理由を説明できれば、提示しないからといって直ちに誠実交渉義務違反になるわけではありません。

以上、根拠資料の提示の必要性に関して、近時の命令例を見ると、例えば、一時金の支給について、組合が決算書の開示を求めたのに対し、会社が「企業実績状況」と題する書面を開示して説明したという事案で、労働委員会は、決算書自体を提示しなければ直ちに誠実交渉義務に反するとはいえないとしても、必要に応じ、団体交渉において、企業業績に関する資料を提示するなどして会社の提案の理由について説明し、これに対して組合からの具体的な指摘があった場合は、適宜、追加資料を提示したり、説明を尽くすなど誠実な対応を取らなければならないとした上で、「企業業績状況」中の製造原価に関する組合の指摘に対し、会社が組合を説得するための回答をしたり、必要に応じて追加の資料などを用いて説明を行うなどしていなかったことを捉えて、不当労働行為に当たると判断しています(殖産運輸事件・北海道労委平成25年7月26日)。

また、春季労使交渉において、組合が賃金支給要領の開示を求めたのに対し、学園が、組合が開示を求めている昇給基準等は公表していない資料に基づくものであり、これらを公表する予定はないと回答したことについて、労働委員会は、その運用の基準が明らかとならない限り、これに関する労働条件を話し合う基礎となるものがないことになるから、仮に手元資料的なものしかないとしても、その内容を組合に示し、その運用について真摯に話し合うのが適切な団体交渉のやり方であるとして、不当労働行為に当たると判断したものがあります(吉備学園事件・岡山県労委平成25年3月14日)。

 

根拠資料の開示については、諸事情により組合の求める資料を開示することが難しい場合があると思います。ただ、そのような場合も、労働委員会の命令例を踏まえると、必要最小限に絞れば資料を開示できないか、組合の求める資料に代わって開示できる資料がないか、対象者を限定して開示できないか等採りうる手段を検討する必要があると思います。それでもどうしても開示が難しい場合は、開示できない理由をきちんと組合に説明して、組合の理解・納得が得られるように努力することが不当労働行為に当たらないためのポイントとなります。

以上