豪雨による土砂崩れで公共交通機関が全面的に運休し、数日間出社できない社員が複数発生しました。後日、対象者のうち希望者は年次有給休暇(以下、年休)扱い、その他の者は欠勤扱いとしました。

ところで、当社では、賞与の支給に際して、考課結果などから算定された賞与額に出勤率を乗じて支給する定めがあります。このケースの場合、年休扱いと欠勤扱いで賞与額の算定(出勤率)に差異が出ても問題ないでしょうか。

2 年休扱いと欠勤扱い

では、前々回前回の基本論を前提に、ご質問のケースを考えてみます。

 

(1)休みと賞与支給額の算定(原則論)

休み(「有給」ではない単なる「休暇」を指します)を取得した場合、休みを取得しない場合と比較して会社に対する貢献度が異なることは明白ですので、これを賞与支給額の算定において考慮することは基本的には許されます。これは、休みがご質問のような交通機関の運休といった従業員にとって不可抗力によるものであっても変わりません。

なお、実質的に考えても、こうした従業員にとって不可抗力による欠勤については、それが使用者の責めによるものでなければ、従業員は賃金請求権を有しませんから(民法536条1項)、「差異が出てもやむを得ない」という結論は不当なものではないと考えます。

 

(2)年休取得の不利益取扱いの禁止

しかし、前回述べた通り、それが労働法等の強行法規に反する場合は許されません。その点で、ご質問のように年休扱いにした場合、労基法136条が、有休取得による不利益取扱いを禁止している点を考慮しなければなりません。

この点につき、エス・ウント・エー事件(最高裁三小 平4.2.18判決 労働判例609号12頁)は、賞与の算出において年休取得日を欠勤扱いすることを無効としています。したがって、事象としては「休み」であっても、これを年休扱いした場合は、賞与の算出においては出勤日とみなすべきこととなります。

なお、欠勤した場合、年休に振り替えることはできますが、その場合は就業規則に規定しておくことが必要です(昭23.12.25 基収4281、昭63.3.14 基発150・婦47)。

一方、ご質問において年休扱いとされなかった「欠勤」については、原則通り、あくまで欠勤日(出勤率計算上、出勤しなかった日)として取り扱えば足りるということとなります。

 

(3)ご質問のケースへの当てはめ

以上により、ご質問のケースでは、年休扱いと欠勤扱いとで賞与支給額の算定に差異が出ても法的には問題はないでしょう。

なお、一応付言すれば、以上は、あくまで法的に問題はないということですので、会社側が考慮して、年休扱いとせず欠勤扱いとなった従業員に対しても、賞与支給額の算定においては、年休扱いとなった従業員同様に出勤したものと取り扱うことが法的に許されないということではありません。

以上

労務行政研究所「労務行政」第3884号120頁掲載「相談室Q&A」(岡芹健夫)の後半の3分の1部分を一部修正のうえ転載