1.LGBTをめぐる状況

  LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとったもので、セクシュアルマイノリティ(「性的少数者」ともいわれます)を表す総称として使用されている表現ですが、最近、マスコミ等でもこのLGBTについて取り上げられることが多くなってきました。

  なぜ多くなってきたのかといいますと、LGBTの当事者が、日常生活等において、様々な困難性を抱えているという現実が認識されるようになってきたことが理由の一つとして挙げられるのは当然のこととして、その他に、平成26年冬に、国際オリンピック委員会(IOC)が、今後の開催都市にLGBTへの差別禁止を求めることを決定したことに伴い、平成32年の東京オリンピックを控える日本の対応に世界が注目していることや、渋谷区議会において、平成27年3月31日に、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が成立し、渋谷区が行うパートナーシップ証明に関する規定である同条例10条、11条の規定も、同年10月28日に施行されたことなどが影響していると思われます。

2.法案化の流れ

  このような流れを受けて、政治のレベルにおいても、平成27年3月には、「LGBT(性的少数者)について、諸外国からの事例なども踏まえ、法的課題を研究し、日本におけるLGBTに関する課題を考え、ダイバーシティ(多様性)な社会を実現することを目的とする」超党派の国会議員によって形成される「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が設立されました。

  また、平成28年1月には、政権与党である自民党が、LGBTに関する課題を検討するプロジェクトチーム(PT)を近く党内に設置する方針を決め、同年2月23日には、「性的指向・性自認に関する特命委員会」を発足させました。自民党は、同年5月24日には、「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」を公表しています。
https://www.jimin.jp/news/policy/132172.html)。

  さらに、民進党も、平成28年1月19日にホームページにおいて、「LGBT差別解消法骨子案たたき台」を公表し(当時・民主党)、同年年5月27日に、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(通称・LGBT差別解消法案)を衆議院に提出しています(提出は、共産党、社民党、生活の党との共同提出。平成28年7月13日現在、衆議院閉会中審査」)。
https://www.minshin.or.jp/article/109178)。

  自民党と民進党の法案の方向性を比較した場合、民進党は、まさに法律により性的指向又は性自認を理由とする差別等を是正・解消することを主眼としていますが、自民党は、「必要な理解が進んでいない現状の中、差別禁止のみが先行すれば、かえって意図せぬ加害者が生じてしまったり、結果として当事者の方がより孤立する結果などを生む恐れもあること」から、「カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会の実現を図ること」を目的としていることからもわかるように、性的指向・性自認を理由とする差別等を直接的に規制するというよりは、まずは性的指向・性自認等に関する国民の理解を促進するという点に主眼があることが窺われ、両党のスタンスには違いがあるように思われます。どのような内容の法律となるかは現時点では不透明な部分がありますが、近い将来に、何らかの形で「性的指向・性自認」(LGBT)に関する法律が制定される可能性が高まっています。

3.企業も今から議論をしておく必要性がある

  LGBTの当事者が日常生活等において現実に困難性を抱えていることはすでに述べましたが、職場においても様々な困難性を抱えていることが指摘されているため、今後、「性的指向・性自認」に関する法律が制定された場合、雇用・労働環境等、企業の人事労務に関連する規定・指針等が設けられる可能性は十分考えられます。

  また、日本におけるLGBTの当事者の割合が、7.6%であるとの調査結果があることからすれば(電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2015」)、職場におけるLGBTの問題については、企業としても、今から現実問題として認識しておく必要があるといえます。

  ただ、企業が職場におけるLGBTについて議論するとしても、参考となる文献等が乏しいのが現状です。

  そこで、本コラムにおいては、企業とLGBTを巡る労働法上の問題、それに関連するトピックなどを取り上げることで、企業の人事労務担当者の皆様に対して参考となるような情報を発信していければと考えています。

以上

※ 企業とLGBTの問題については、必ずしも議論が深まっている分野ではなく、不確定要素も多いため、本コラムの記事については、予告なく削除・加除等を行うことがある点については予めお断りをさせて頂きます。

文責:弁護士 帯刀康一