【法律改正情報】
「中華人民共和国旅行法」(全人代常務委2013年4月25日発布、2013年10月1日施行)
「国務院の行政許可項目等事項の取消及び許可権限の下級機関への移行に関する決定」(国務院2013年5月19日公布)
「最高人民法院、最高人民検察院の食品安全刑事案件の処理における法律の適用に関する若干問題の解釈」(最高人民法院、最高人民検察院2013年4月28日発布、2013年5月4日施行)
【内部対立を受けて各国際仲裁組織が名前を変更。仲裁規定はどのように書くべきか?】上海代表処 首席代表弁護士 東城 聡
【中国でのビジネストラブルに備える契約書の作成③】 東京中国室弁護士 高 亮
【中国は今・・・ 中国は第3次大規模移民ブーム?】~ 東京中国室 顧問 千葉 勝茂
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【巻頭言】~中国、蝕まれる大地~ 会長弁護士 高井伸夫
中国各地では環境汚染に対する危機感が高まっており、最近では上海市松江区での電池工場、雲南昆明市では製油工場計画への住民の反対運動が話題をよんでいる。国家林業局は、20世紀末以降毎年3436平方㌔が砂漠化で失われていると発表している。
これは5年毎に北京市の面積が砂漠化していることを意味し、東京都面積の約1.6個弱が毎年失われていることになる。
又、大気汚染の拡大も深刻で、環境保護部は3月1日より華北、華東、華南の19省の47都市で大気汚染物質特別排出規制を開始したが、対象面積は全国比14%の約133万平方㌔、人口比では48%、経済総量では71%にも達する広範な地域である。
一方、水に付いては、国土資源部公表の地下水水質監視拠点472カ所の内(2012年5月時点)、55%の観測地点で「比較的悪い」もしくは「極めて悪い」との結果が出たと言う。
殊に、華北平原(北京市、天津市、河北省、山東省等の黄河北部一帯)での水質調査結果では(2013年3月)、地下水汚染が深刻化し、地下の浅い部分で直接飲用に適するのは全体の22.2%と言う。
ある新聞は、国内の64%の都市で「深刻な地下水汚染」が発生しており、残りの33%の都市も「軽度の汚染」ありとのデータを公表し反響をよんでいる。
元々、水資源が世界の6%しかない根本的な水不足に加え、地下水汚染は中国人民の生存条件を狭め、今後の発展のアキレス腱とも言えよう。
中国が強圧的に領有権拡大に走っているのは、実は水の確保にあるのではないか。
若し、日中関係が今より好転し、相互信頼関係が定着すれば、日本からの恒久的水供給も可能なのに…と思う昨今である。
以上
【法律改正情報】~法律
「中華人民共和国旅行法」(全人代常務委2013年4月25日発布、2013年10月1日施行)
本法は第十二回全国人民代表大会常務委員会が発効させた最初の法律である。
内容は、総則、旅行者、旅行企画及び促進、旅行経営、旅行サービス契約、旅行安全、旅行監督管理、旅行紛争の処理、法律責任、附則等十章からなり、総合的、概括的な立法によって旅行者の権益の保護を最重要の立法趣旨とした法律である。
旅行者の利益の保護の観点から以下の点が注目されている。
観光地のチケットについて、値段を上げる場合6か月前に前もって公布しなければならない。
公共の資源を利用して建設した観光地のチケットの値上げは、公聴会を経なければならない。
団体旅行について、旅行会社が不合理な定価で団体旅行を組み、旅行者を誘致、詐欺してはならない。
旅行の安全について、観光地の設備が整っていない場合、整備されるまでに営業停止を命じるとともに、2万人民元から20万人民元までの過料を科す。
旅行者の人数が観光地の受け入れられる限界を超えた場合、適宜に政府への報告及び適切な措置を取らなかったとき、1か月から6か月の営業停止に処する。
【法律改正情報】~行政法規
「国務院の行政許可項目等事項の取消及び許可権限の下級機関への移行に関する決定」(国務院2013年5月19日公布)
全国人民代表大会第1回会議は、政府機関が投資、経営に関する行政許可事項、資質資格の認定及び許可を減らし、不合理な行政費用及び行政基金を減らすことを明確に目的としてあげた。
これに従って、国務院が、主に行政許可が必要な71項目の事項の行政許可を廃止し、20項目の事項の許可権限を下級の行政機関に委譲した。
たとえば、民間企業の民用航空の拡張のための投資における国家発展改革委員会の行政許可、外国人旅行者が自己所有する交通機械による中国国内での旅行における公安部の許可、海外で国内の出版物を展覧するときの新聞出版総局の行政許可、全国規模の人材交流会を企画するときの人材資源社会保険庁の行政許可、石油、ガス等の合弁契約の商務委員会の行政許可等が廃止された。
【法律改正情報】~司法解釈
「最高人民法院、最高人民検察院の食品安全刑事案件の処理における法律の適用に関する若干問題の解釈」(最高人民法院、最高人民検察院2013年4月28日発布、2013年5月4日施行)
中国において近年食品安全の問題が注目されるようになってきた。
統計によると2010年から2012年まで生産、販売の安全基準に至らない食品の販売及び有毒、有害物質を含む食品の生産、販売がそれぞれ179.83%、224.62%増えた。
そこで、食品安全犯罪への取り締まり、食品安全を確保するために本解釈を制定した。
本解釈は主に刑法上の包括的な規定の内容を明確化させるために作られた規定である。
たとえば「健康に重大な侵害を与えたとは」、「結果が厳重であるとは」、「死亡させ、または他の重大な侵害を与えた場合とは」等について定義を列挙し、明確化することに努めている。
【法律改正情報につき 文:北京代表処 首席代表 萩原大吾】
【内部対立を受けて各国際仲裁組織が名前を変更。仲裁規定はどのように書くべきか?】 上海代表処 首席代表弁護士 東城 聡
(1)上海の仲裁機関の名前の変更
昨年秋頃に、北京にある中国国際経済貿易仲裁委員会の本部と、上海及び華南分会との組織的な対立により、仲裁手続の使用に問題が生じている旨を、弊所ホームページなどを通してお伝えしてまいりました。
この件の続報として、今年4月に上海分会が名前を「上海国際経済貿易仲裁委員会」に変更して、独立した仲裁機関として活動していくことを発表したことをお伝えします(名前変更を含む仲裁規則は5月1日に施行されております。)。
これによる実務への影響についてご説明します。
(2)組織名の変更
4月11日、上海の金融機関の集まる浦東地区にて、中国国際経済貿易仲裁委員会のプレスリリースがありました。
実はこれより1週間ほど前に、中国国際経済貿易仲裁委員会の幹部に直接話を聞く機会がありました。
しかしこのときの議論の中心は北京にある本部との対立と実務への影響であり、組織名を変更についてはほぼ説明がありませんでしたので、11日の発表は多少驚きました。
なお、華南分会については、昨年10月22日から「華南国際経済貿易仲裁委員会」の名前の使用を開始しています。
(3)現在の状況
ここで状況を簡単におさらいしておきます。
2012年8月1日、中国国際経済貿易仲裁委員会は、同委員会が下部組織とする同委員会上海分会及び華南分会に対して、仲裁を受領し業務を行う権利を停止しました。
この権限の停止により、同委員会上海・華南分会において仲裁を行っても、当該仲裁に基づいて執行を行うことができないとの解釈も成り立つようになったため、実務上混乱が生じていました。
具体的には、仲裁法66条で、「渉外仲裁委員会は、中国国際商会が設置することができる」とあるところ、中国国際商会が設置した中国国際経済貿易仲裁委員会の分会に過ぎない上海分会・華南分会が独自に渉外仲裁委員会として活動することは認められず、当該仲裁を執行することが法律上認められないのではないかという問題点です(更に同法73条の仲裁規則に関する規定についても同様の問題があります。)。
(4)上海分会の組織名変更による影響
私が話を聞いた上海分会の幹部によれば、仲裁法は「中国国際商会が設置することが『できる』」との規定なので、中国国際商会の関わらない渉外仲裁委員会を排除するものではないとの解釈でした。
更に上海分会は2012年度525件の事件を受理したが、仲裁判断が執行段階で否定された案件などは1件もなく、上海分会の手続を利用することに何ら問題はないと強く主張していました。
これは当事者の意見なので、鵜呑みにすることはできませんが、私が知る限りでは、上海周辺の紛争については、優秀な仲裁委員も揃っている上海分会(改名後の上海国際経済貿易仲裁委員会)を選択して、特に問題ないと考えている中国弁護士が大半です。
上海分会・華南分会(であった組織)が中国国際経済貿易仲裁委員会の名前を冠さなくなった以上、仲裁条項において、「中国国際経済貿易仲裁委員会」を仲裁機関として、場所を上海市(又は深セン)として、中国国際経済貿易仲裁委員会の本部の地方事務所又は分会のどちらでも仲裁を提起できるという良いところ取りの解釈は成り立ちえなくなりました。
今後は「中国国際経済貿易仲裁委員会」なのか、「上海(深セン)国際経済貿易仲裁委員会」なのかを明確に選択する必要があります。
先述のとおり、現在のところ上海の実務家の多くは、上海については、上海市政府の後押しもある上海国際経済貿易仲裁委員会を選択して大きな問題は生じないと考えています。
以上
中国でのビジネストラブルに備える契約書の作成③ 東京中国室弁護士 高 亮
前回の中国情報では、契約書作成にあたり、日中両国の裁判所の判決が相互に執行できないことから、一般的な管轄合意の規定を設けることが必ずしも適切ではないことをお伝えしました。
今回は、管轄合意に代わる紛争解決条項として、仲裁条項をご紹介します。
仲裁とは、当事者の仲裁合意に基づき、第三者である仲裁人が仲裁判断を行い、当事者は仲裁判断に拘束されるという手続です。
仲裁判断は確定判決と同一の効力を持ち(仲裁法45条1項)、また日中両国が加盟しているニューヨーク条約により、加盟国における仲裁判断は原則として承認執行されるものとなっています。
また、仲裁には、仲裁人の指名を含めた手続の柔軟性や、仲裁判断に対する不服申立てができず、紛争の早期解決ができるという特徴も存します。
日中の著名な仲裁機関には、日本商事仲裁協会やCIETAC(中国国際経済貿易仲裁委員会)が存します(CIETACには、日本人の仲裁人も在籍しています。また、本号記事「内部対立を受けて各国際仲裁組織が名前を変更。仲裁規定はどのように書くべきか?」もご参照ください。)。
以上
<中国は今…> 中国は第3次大規模移民ブーム?東京中国室顧問 千葉 勝茂
「習近平の密約」(加藤隆則、竹内正一郎著)によれば、国外に流出した違法資金は、2010年が4120億㌦、2011年が6000億㌦、2012年には1兆㌦を突破し、2013年には1.5兆㌦に達すると推計されると言う。「裸官」とは、子女を海外留学させ、国籍を得させた上で資産も又国外移転させる官僚を意味する。
「中国国際移民報告2012」によれば1億元(約16億円)以上の個人資産を有する企業経営者の内、既に海外移住している人は27%に達し、47%が「移住を検討中」、70%以上が「投資移住を完了、或いは検討中」であると言う。
1970年代の労働移民、1980~90年代の技術、留学移民と異なり、今回の第3次ブームは富裕層の移民であり「移資潮」(資本移動ブーム)とも言う特徴がある。
富裕層が移民を目指すのは、子供に高品質の教育機会を与えたい、財産の安全保障、より高い生活水準が大きな理由と言う。
結果、貧困層のみが本土に残留することになるのであろうか。
以上