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弁護士コラム

2011/10/12
【弁護士コラム】米倉圭一郎先生「採用内定をめぐる法律関係」

1.日本では毎年4月に入社する新卒者の採用が各社にて行われています。そして、倫理憲章において採用内定日開始日は10月1日とされていることから、新卒採用の内定通知が出されている頃だと思います。そこで、今回は4月に入社する方、内定者をめぐる法的な問題点について解説します。

2.まず、採用内定の法的な意義については、企業からの募集(申込みの誘引)に対し、労働者が応募したことは労働契約の申込みであり、これに対する企業からの採用内定通知は、その申込みに対する承諾であり、これにより企業と労働者との間に解約権を留保した労働契約が成立したと解されています(「大日本印刷事件」最二小 昭和54年7月20日判決参照)。
 
もっとも、新卒者の採用の場合は、就労の始期は新卒者が大学を卒業した後とし、また、入社までの間に誓約書等により採用内定取消事由を定めていることから、企業と内定者との間には始期付解約権留保付労働契約が成立していると解されています。

 上記のように採用内定を始期付解約権留保付労働契約の成立と解すると、採用内定取消は留保付解約権の行使と考えることになります。しかしながら、企業が内定者に提出させた誓約書等に定めた採用内定取消事由に形式的に該当したとしても、それだけで企業は採用内定の取り消しをできるわけではありません。採用内定の取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることができないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られています(「大日本印刷事件」最二小 昭和54年7月20日判決参照)。

 なお、今年は震災の影響による内定取消が発生したとのことですが、事業主が新規学卒者の内定を取り消す場合には、予め、公共職業安定所に通知することとされています(職業安定法施行規則第35条第2項)。そして、採用内定を取り消した場合、企業が恣意的に内定を取り消したと評価される場合には応募者の損害賠償請求が認められることもあります。

3.また、中途採用の場合も、新卒者の採用と同様に企業が応募者に対して、内定通知を出すという対応が取られていますが、中途採用の内定と新卒者の内定とは法的には同様に考えられています。すなわち、企業が採用内定通知を出したことによって、企業と応募者との間に始期付解約権留保付労働契約が成立することになります(「オプトエレクトロニクス事件」東京地裁平成16年6月23日判決参照)。そのため、中途採用の内定取消も新卒採用と同様に企業が自由に行えるわけではありません。

4.最後に採用内々定について触れたいと思います。

 採用内々定とは、採用内定日(倫理憲章において採用内定日開始日は10月1日とされています。)の内定通知よりも以前に、企業の採用担当者が応募社に対して採用が決まった旨を口頭で告げることをいうものとされています。採用内々定の時点では、企業と応募者との間には労働契約が成立したとはいえないため、内々定の取消しについて、留保付解約権の問題とはならないと考えられています。もっとも、企業が内々定を取り消した場合には、その態様や経緯によっては、応募者の企業に対する慰謝料が認められることがあります。例えば、「コーセーアールイー(第2)事件」福岡高裁平成23年3月10日判決は、内々定の取消し50万円(弁護士費用を含めると55万円)の損害賠償請求を認容しています。

 なお、企業が内々定を通知したに留まる場合でも、個別の事案によっては内定が成立したとされることもあります。例えば、「パソナ(ヨドバシカメラ)事件」大阪地裁平成16年6月9日判決は、企業が準内定(註:当該事案において内定に準ずるものとされています)を出した事案ですが、その後に研修、身分証明書用の写真撮影、スタッフコードの交付等が行われたことから、研修までの一連の行為によって、労働契約の申込みに対する黙示の承諾を与えたとして、採用内定が成立したと判断しています。

5.以上が採用内定をめぐる法律関係の概略となります。

 企業が応募者に対して内定通知を出すことにより、企業と応募者との間には始期付解約権留保付ではありますが労働契約が成立することになりますので、入社前の採用内定段階と軽く考えずに、社員と同様に労働契約が成立したことを前提した対応を行って頂きたいと思います。

以上

 

 

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