弁護士コラム
2011/06/08
【弁護士コラム】廣上精一弁護士「リハビリ勤務について」
今回はここ数年ご相談の多いメンタルヘルス問題のうち、判断が難しい「復職」について、現在の裁判所の考え方をご紹介致します。
まず、「復職」とは、業務外の傷病により休職した社員を職場に復帰させることですが、会社が社員の復帰を認めるかどうかの判断基準は、従来は「治癒」したか否かだけでした。そして、この「治癒」は、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」と理解されていました。
ところが、平成一○年四月九日、最高裁判所は片山組事件において、次のような判決を下しました。「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」
右の片山組事件は復職に関するものではありませんが、この判例が一つのきっかけとなって、その後、復職の判断基準が議論されるようになりました。
そして、平成二○年一月二五日、大阪地方裁判所は、キヤノンソフト情報システム事件において、片山組事件の右判例を引用した上で、「雇用契約上、原告に職種や業務内容の特定はなく、復職当初は開発部門で従前のように就労することが困難であれば、しばらくは負担軽減措置をとるなどの配慮をすることも被告の事業規模からして不可能ではないと解される上、被告の主張によればサポート部門は開発部門より残業時間が少なく作業計画を立てやすいとのことであり、サポート部門に原告を配置することは可能であったはずである。」と判示し、休職期間が満了したことをもって退職とした会社の措置は無効であると結論付けました。
右判決が判示する負担軽減措置や負担の少ない部署への配置は「リハビリ勤務」とも呼ばれていますが、右の最高裁判決及び大阪地裁判決に従えば、今後は会社が社員の復職の可否を判断するにあたっては、従来の治癒したか否かの判断だけでなく、この「リハビリ勤務」の可能性も検討する必要があるということになります。
さらに、リハビリ勤務の可能性の判断に当たっては、どのような負担軽減措置を行えばよいかという点が問題になります。個々の事案によって、会社側の事情が異なるため、担当部署の変更や職務内容の変更につきましては一概に申し上げられませんが、業務の量の調整(例えば労働時間の削減)につきましては、主治医や専門医の意見を聞いたうえで、社員と相談して決めた方がよいと思います。特にメンタルヘルスの場合は、会社が一方的に労働時間を削減しますと、社員の自信やプライドを失わせることになりかねませんので、社員の意思を確認する手続は必要になると考えられた方がよいと思います。
なお、メンタルヘルスの場合は、素人判断は避けた方がよいと思います。復職を認めるかどうか、また、リハビリ勤務を認めるかどうか、さらには、どのようなリハビリ勤務にするかといった諸点を会社が判断するにあたっては、必ず主治医や専門医の意見を聴取しておく必要があります。ただし、社員が会社と主治医との面談を拒否したり、会社指定の専門医の診察を受けないなど、社員の健康状態を会社が把握しようとすることに社員自身が協力しない場合は、会社は入手することが可能な範囲の情報で右の各点を判断するほかなく、このような場合にまで医師の意見を必要とするものではありません(大建工業事件の大阪地裁判決、東京都教育委員会事件の東京地裁判決)。
高井・岡芹法律事務所発行 Management Law Letter No.86(2010年新緑号)
「ロー・トピックス 人事労務の時言時論(第1回)『リハビリ勤務について』」より
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